「催眠」と聞いたとき、あなたは何をイメージしますか? 五円玉に紐を通し、「あなたはだんだん眠くなる〜…」と言いながら振り子のように揺らして眠気を誘う…いわゆる“催眠術”を想像する方が多いのではないでしょうか。超能力によく似た、非現実的でオカルトなイメージを抱いている方も少なくないかもしれません。

しかし、日常生活でもしかしたらあなたも“催眠術”の使い手になっている瞬間があるかもしれないとしたら…? これまで“催眠術”を使ったことはなくても、今後身につけることができるとしたら…? 一つずつ説明していきましょう。




1.催眠とは何か

まず、催眠とは何かという点から説明していきましょう。

そもそも「催眠」の本来の意味は文字通り「眠気を催すこと」(または、「眠気を催させること」)です。しかし、最近は“催眠術”のイメージが強く、「意志薄弱に陥り、暗示を受けやすい意識状態」という意味で使われることが多くなってきました。

今回も、いわゆる“催眠術”の場面で使われる「催眠」という言葉の意味について解説します。

よくある誤解

使い手といえば、催眠術師やメンタリストなる肩書きの人の専売特許と思うかもしれませんね。つまり、催眠術=特殊な能力と考えている方が多く、なかには「催眠術なんてあるはずない!」と思っている方もいるのではないでしょうか。

しかし、“催眠術”とは心理学をベースとしたれっきとしたテクニックです。実際、催眠の研究をしている大学もありますし、海外では医療の分野でも活用されています。そのため、ポイントさえ抑えればあなたも“催眠術”を使えるようになるということ。いずれにせよ、催眠術とは超能力でも、インチキでもないということだけ、理解しておいてください。

ちなみに、心理学者のなかでは“催眠術”ではなく“催眠”と呼ぶのが一般的です。

催眠を正しく理解するポイント

催眠を理解するうえで知っておきたいのは、「意識(顕在意識)」と「無意識(潜在意識)」についてです。

意識とは、論理的な思考や判断・社会性・理性を司るもので自我とも呼ばれます。一方、無意識とは、食欲や性欲などの欲求・感情・過去の記憶などを司るもので、本能とも呼ばれるものです。

心理学者のフロイトは、人間の行動を決定するのは意識が1割、無意識が9割と提唱しています。たとえば、あなたが「ダイエットしたい!」と意識していたとします。しかし、無意識的に「運動するのは面倒くさい」「たくさん食べたい」などと考えていたら、必ずと言っていいほど失敗しますよね。

つまり、人間の行動と無意識の部分への関係性は非常に密接ということ。

では、無意識の領域から社会生活を損なわせるような感情、欲求などが飛び出してこないのはなぜなのでしょうか。仮に空腹でもコンビニの商品棚に陳列しているパンをそのまま食べることはありませんよね。

きちんとレジまで持っていき、会計を済ませることができるのには、意識と無意識の間に自我のブロックがあるためです。

このブロックがあるからこそ、私たちは無意識のままに生活することはありません。

催眠のメカニズム

自我のブロックに隙間が生まれ、意識と無意識がつながった状態。それが催眠状態です。催眠状態が深まれば深まるほどに、ブロックを通り抜けやすくなり、潜在意識に暗示が届くようになります。

通常の意識状態では無意識に暗示が入ることをブロックして、跳ね返してしまいます。たとえば、メンタリストに「椅子から立てない」と暗示をかけられても、通常の意識状態ではブロックによって跳ね返され、無意識の領域までは届きません。「そんなわけない」と思ってしまうことでしょう。

しかし、催眠状態が深まっていると、ブロックの隙間も増えているため、無意識の領域へと届きやすくなります。そうすると、頭では「そんなわけない」と思いながらも、潜在意識に「椅子から立てない」という暗示が入り、実際に椅子から立てなくなってしまいます。

催眠状態をつくるカンタンな例として「どこか一点に集中させる」が挙げられます。人は一点に集中しているとそれ以外の情報を意識的にキャッチしにくくなるもの。運転に集中しているときに助手席の人がいろいろ話しかけてきても、全く頭に入ってきませんよね。

そのようなときは無意識の領域に情報が入っていきやすくなります。これが催眠のメカニズムです。

催眠により生じる現象

それでは、催眠によってどのようなことができるようになるのでしょうか。催眠の深さにもよりますが、以下のことであればできるようになると言われています。

<催眠によってできると言われていること>

  • 味覚が変わる
  • 触ったものから手が離れない
  • 自分の名前を忘れる
  • 笑いが止まらない
  • 動物と話をする
  • 子どもの頃の話し方に戻る
  • 他人になる
  • 幻覚/幻聴をつくりだす
  • 探し物をみつける(最後に使った場所を思い出す)
  • 自分のなかのもうひとりの自分と話をする
  • ネガティブな感情やストレスを体の外へ放出する
  • 他人、動物、物になる
  • 外国語を話せるようになる(基礎学力は必要)
  • 注射や歯の治療の痛みを感じなくなる
  • 食欲が抑えられる
  • タバコを吸いたくなくなる
  • 忘れたい出来事を一時的に思い出せなくなる
  • すぐに眠れる
  • 車酔いしなくなる
  • リラックスできる
  • 感情をコントロールできる(誰かを好きになる)
  • 知り合いが別人に見える 
  • 前世を見る 

などなど。いかがでしょう? かなりいろいろなことができるようになるといえそうです。では、逆に催眠でできないといわれているのは、どのようなことでしょうか。

<催眠ではできないこと>

  • 鳥のように空を飛ぶ
  • アニメキャラクターのように体から光線を放つ
  • 新幹線よりも早いスピードで走る
  • テレパシーを習得する

などなど。身体的に不可能なものはできません。できるとしても“気がする”だけ(鳥のように空を飛べる気がするなど)。

催眠によって何もかもできるようになるわけではないということは覚えておきましょう。

2.催眠を自身の生活に役立てる方法

催眠についての基本的な知識、そして可能性についてはなんとなくご理解いただけたのではないでしょうか。では、その催眠の技術を自分の生活に活かすにはどうすればいいのでしょうか?

そもそも活かすことができるのか、活かすとどのようなメリットを得られるのか、という点から解説していきます。

催眠をマスターすることで得られるメリット

自分自身に催眠を活かす。それは催眠というよりも、イメージトレーニングや自己啓発と表現したほうがシックリくるかもしれません。

一流のアスリートは、常に勝利や成功のイメージトレーニングをしているという話もよく聞きます。

勝敗のかかった咄嗟の瞬間に、失敗のイメージが脳裏をよぎれば人間の体は硬直してしまうもの。そうならないように、常に勝利や成功のイメージトレーニングをしています。これを自己催眠といいます。

自己催眠を習得することで、前項で紹介したように、不安な気持ちやストレスが解消されて精神への負担軽減が期待できます。禁酒・禁煙などへのストレスも緩和することができるといわれています。

また、体がリラックス状態になれば筋肉が弛緩し、血流が良くなるので、冷え性や肩こりの改善も期待できるでしょう。「自己催眠をマスターしたい」と思った方も多いのではないでしょうか。

ただし、重度の疾患である可能性もありますし、うつ病など精神疾患を患っている場合、悪化する恐れもあると言われています。不安がある方は、いきなり自己催眠を行なう前に医療機関で診療することをオススメします。

自己催眠の方法

では、自己催眠を行なうとしたらどうすればいいのでしょうか。何か専門的な知識やテクニックを身につける必要があるのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、方法としては実にシンプル。具体的には、以下の2つです。

<自己催眠をかけるためのステップ>

  • リラックスする
  • 自らに暗示をかける

リラックスするための方法は特に指定はありません。自分自身が一番リラックスできる方法を選んでください。

自己暗示をかける方法としては2つ。具体的には、「事前に音声を録音したものを再生する方法」と「短い文章または単語を繰り返し復唱する方法」があります。こちらは、リラックスモードに入る前に用意しておきましょう。

3.催眠療法とは

自己催眠にも興味があるけど、自分一人でやるのは不安…という方もいらっしゃると思います。そのような方におすすめしたいのが催眠療法を活用することです。催眠療法とは一体どのようなものなのでしょうか。こちらで解説します。

催眠療法とは何か

催眠療法とは、ヒプノセラピーとも呼ばれる心理カウンセリングの手法のひとつ(「ヒプノ・hypno」とはギリシャ語の「ヒプノス・hypnos」が語源で「眠り」を意味します)。

深いリラクゼーションの状態から催眠状態へと導いていくセラピーのことを指します。催眠療法は、1955年に英国医師会が、1958年に米国医師会・米国心理学会が有効な療法として認めており、ここ最近日本での認知度も向上してきました。

ちなみに、催眠療法を施術するカウンセラーの資格としては、日本催眠医学心理学会認定の「催眠技能士」などがあります。

催眠療法はイメージトレーニングやメンタルトレーニングに活用される他、末期ガン患者や進行の早い小児ガンなどの治療として施術した結果、効果があった臨床例もあると言われています。

催眠療法の種類

では、催眠療法にはどのような種類があるのでしょうか。代表的なものをいくつか紹介します。

リラクゼーション

カウンセラーによる催眠療法では、暗示が容易に無意識の領域へ入るようになると言われています。自己催眠と比較すると、リラックス状態へ導かれやすいようです。

リラクゼーションでは、カウンセラーの誘導に合わせてリラックスしてからカウンセリングがスタート。カウンセリングを通じて、交感神経から副交感神経に切り替え、リラックス効果を最大化することがリラクゼーションの目的です。

特に、自律神経失調症の方にも有効だといわれています。

行動修正

行動修正とは、催眠状態の際に肯定的な暗示を無意識の領域に働きかけることで、無意識によりよい情報を伝えていく方法。オーソドックスでありながら効果のあるカウンセリングだと言われています。

行動修正だけでうまくいかない場合もあります。その場合は、退行療法や副人格などの方法を併せて行なっていくことで、より高い効果が得られると言われているようです。

年齢退行

うつ状態だったり、自己否定したり、罪悪感や孤独感に苛まれたり、やる気が出なかったり、プラス思考になれなかったり、自信が持てなかったり、イライラが続いたり、不安や緊張、恐怖が常に心のどこかにいたり…といった悩みを抱えている方の根本的な原因が過去の記憶にある場合、有効な手法は年齢退行だと言われています。

無意識の奥底にある心の傷や暗示を探ることで原因を突き止め、自分自身を苦しめていたトラウマを解消し、プラスへと変換することで、心の痛みを癒す手法です。「自分には特にトラウマのようなものはない!」と感じていたとしても、 実際に年齢退行すると癒すべき必要のあるトラウマが見つかることもあるようです。

インナーチャイルド

インナーチャイルドとは自分の心の中に存在する、心に傷を負った小さな子どものこと。インナーチャイルドを抱えたまま大人になってしまい、日常生活に支障をきたしている人のことをアダルトチルドレンと呼びます。

カウンセリングを通じて、心に傷を負った子どもの自分を現在の自分が癒して安心させてあげる手法。それがインナーチャイルドです。

胎児期退行

妊娠中のお母さんが不安に思うと胎児は不安な感情を自分の感情と勘違いし、そのまま成長して大人になっても、漠然とした不安などから抜け出せないことがあります。

現在抱えている心の悩みの原因が胎児期や出生時にある場合、マイナスの感情はお母さんのものであって、胎児だった人の感情ではないことを知ってもらい、解決へと導く手法が胎児期退行です。

また、この胎児期退行を通じて、自分がなぜ両親のもとに生まれてきたのか、この世に生まれてきた意味や目的を探るきっかけにもなるようです。

両親との関係改善のヒントがみつかったり、愛情を確認できたりするため、胎児期退行によるカウンセリングが人生を変える転機になる人も少なくありません。

前世療法

前世療法は、米国の精神科医 ブライアン・ワイス博士の著作 『前世療法 (past life therapy)』 で広く知られるようになった催眠療法です。具体的には、現在直面している問題の原因を前世の経験から探ることを目的とするカウンセリングのこと。

「幼児期や胎児期にも原因が見当たらないような問題は、前世に原因があるのではないか」という考えのもと、催眠により前世に戻り、過去の人生から持ち越した想いや悩みなどを解消し、問題解決へと導いていきます。

また、前世療法を受けることで、自分が何のために、どんな課題を持って生まれてきたのか、これからどう生きていったらよいのか、自分自身のルーツを確認する人もいるようです。

この手法を語るうえで無視できないのが、「そもそも前世は存在するのか?」という疑問。輪廻転生を証明することは不可能。しかし、催眠療法を行なう上でそれらはあまり重要視されていません。

大切なのは、自分自身が前世からのメッセージを受け取ったと感じることで、今抱えている問題を解決する方法やこれからどう生きていくべきかのヒントを得ること。前世の有無云々ではなく、深層心理のメッセージを受け取る有効な手段のひとつと考えるべきだといわれています。

副人格

人間は、ひとつではなく多くの人格によって形成されていると言われています。人格のなかにはとても優れたものもあれば、特定の感情や行動に対して未発達な人格もあります。

このカウンセリングは、主人格と、自分自身がコントロールできない副人格をそれぞれ「一人の人物」としてイメージするところから始まります。 そして、主人格と副人格を対話させ、自己矛盾の原因や解決方法を見つけ出すよう進めることで、悩みを解消させていく手法です。

最終的には今まで気づかなかった人格を自分のなかに取り入れ、副人格をコントロールできるようになることが目的。 カウンセリングを通じて、本当の自分、そして新しい自分を見つけることもできるとも言われています。

未来世療法

これまで紹介してきた催眠療法は、過去に遡る退行催眠がほとんどでしたが、未来に目を向けるのが未来世療法です。未来世療法では、催眠状態で時間を進めていくことで、意識、行動がどのように変化していくのかを見ていきます。数ヶ月後、数年後、そして人によっては来世の意識を体験することで、未来の自分からアドバイスをもらうことができます。

幸せな未来のイメージを焼き付けることで、無意識の領域は実現させるためにフルに働き始めます。その結果、日々の生活のモチベーション向上につながることもあるようです。

ハイヤーセルフ療法

ハイヤーセルフとは「大いなる自己」のこと。自分のなかの最高位の人格で、現在・過去・未来、人生の目的まで、全てを知っていると言われており、直感やひらめき、思いがけないアイデアなどを発してくれる存在です。

自分のなかに潜在的にいる「高みの自分」へとアプローチする手法、それがハイヤーセルフ療法です。

ハイヤーセルフとの対話のなかで、さまざまな疑問を解決できたり、アドバイスやメッセージをもらったりといったことがあるようです。人生において何か大きな選択をするときなどに、ハイヤーセルフ療法を行なう人が多いと言われています。

4.おすすめの本

最後に、催眠とは何かをもっと掘り下げたい、自己催眠に興味がある、催眠療法についてもっと知りたい、という方に向けてオススメの本を紹介します。気になる一冊がある方は、ぜひ手にとってみてください。

誰でもすぐできる 催眠術の教科書 |林 貞年 (著)

催眠術に興味がある、という方にオススメの一冊です。自己催眠やカウンセリングについては触れられていませんが、いわゆるショーとしての催眠術については充分にまとめられています。なんとなく催眠術について知りたい、使えるようになりたい方はぜひ読んでください。

願いをかなえる自己催眠-人生に変化を引き起こす9つのツール|スティーブン・ランクトン (著), 上地明彦 (翻訳)

催眠療法を受けるほどではないので自己催眠をやってみたい。そんな方に手にとっていただきたい一冊です。

自己催眠で活用できるツール(方法)が9つもまとめられていますので、これまで心理学や催眠について全く学んでこなかった初心者の方でも安心してスタートできます。

あなたにもできるヒプノセラピー―催眠療法|A・M・クラズナー (著), 小林加奈子 (翻訳)

米国催眠療法協会の創立者、クラズナー博士による一冊。催眠療法(ヒプノセラピー)についての概要から具体的な事例までまとめられています。催眠療法のカウンセラーを目指したいと考えている方にとっては、必携の書だといえるでしょう。

マンガで読む奇跡の物語 ワイス博士の前世療法

ブライアン・L・ワイス (著)、石井 香衣 (イラスト)
前世療法の実例についてわかりやすくまとめられた一冊です。ワイス博士のもとに訪れたひとりの女性患者へのカウンセリングの様子、前世療法が生まれたきっかけ、具体的な成果などについて記されています。前世療法についてもっと知りたいという方は、ぜひご覧ください。

ヒプノセラピーの教科書―はじめての人もひとりでできる |小瀬村 真弓 (著)

催眠療法(ヒプノセラピー)初心者向けの一冊。催眠療法とは何かをもっと知りたい、自己催眠をできるようになりたいという方にとっては役立つ内容が満載です。

今回ご紹介した催眠療法の種類についてもより深く記載されているので、催眠療法に興味のある方はぜひ読んでみてください。

5.まとめ

催眠とは何か、から始まり、自己催眠、催眠療法までご紹介しましたが、ご理解いただけたでしょうか。

非科学的な側面のあるテーマですので、すべてを受け入れることは難しいかもしれません。しかし、催眠は決してオカルトでも、トリックでもありません。催眠を通じて、不安や悩みを解消できたり、新しい自分と出会えたりしている人がいるのも事実です。

「目に見えないから」といって否定するのではなく、まずは受容すること。それにより、今後の人生における視野が広がっていくかもしれません。この記事を通じて、今まで敬遠していた世界が少しでも身近に感じられたなら幸いです。

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