ビジネスの世界でも、スポーツの世界でも、「成功者は自分なりの習慣を持っている」とよく言われます。

イチロー選手の打席前のルーティンや8時間睡眠は有名な話。

ウォルト・ディズニー氏は叶えたい夢に愛称をつけ、北野武氏は若手の頃から30年以上も自宅や楽屋のトイレ掃除を続けていたそう。

著名人の数々のエピソードから、習慣化が成功への近道であることは何となく想像がつきます。

では、

  • 習慣と成功の因果関係とは?
  • 成功を引き寄せる習慣とは?

今回は、成功者と呼ばれる方々の習慣を例に挙げ、自身のビジョンを実現するためのヒントを探っていきたいと思います。

目次




1. 習慣はなぜ成功を生むのか

「習慣」
①長い間繰り返し行われていて、そうすることが決まりのようになっている事柄。また、繰り返し行うこと。
②ならわし。しきたり。風習。慣習。
③学習により後天的に獲得され、繰り返し行われた結果、比較的固定化するに至った反応様式。

※大辞林 第三版より一部抜粋

個人における習慣として着目すべきは、③。

同じことを繰り返し行っていくうちに、「後天的」に「獲得」「固定化」されたもの、それが習慣であると言えます。

身近な例
朝起きてから夜寝るまでの間には、人によってさまざまな習慣があるはず。たとえば、ベッドから出てすぐにカーテンを開ける、朝のニュースを見ながら歯を磨く、会社に着いたらまずメールをチェックする、エスカレーターではなく階段を使う、帰りの電車でSNSにレスをする、……などなど。

これらは生まれつきできていたわけではなく、何かをきっかけに意識的に始めた事柄だと思います。しかし、日々繰り返しているうちに、いつの間にか無意識に行うようになっていた。

つまり、特に考えたり意気込んだりするまでもなく行えることが、自分のなかで増えたということです。

行動に限らず、精神面での習慣もたくさんあると思います。ベタな例だと「人前で話すときは聴衆をジャガイモだと思い込む」というものがありますが、これも習慣化されれば本当に緊張しにくくなり、大勢の前でもスムーズに話せるようになったりします。

思考の習慣化が行動に影響を与えている一例と言えるでしょう。

行動、そして考え方の習慣化により、私たちは自身の「できること」を増やしています。あるいは、「できること」の質を高めています。

これが、習慣=成功への近道とされる所以ではないでしょうか。

では、世の中の成功者が習慣化している行動や考え方を、ひとりずつ見ていきましょう。

2. イチローに学ぶ、成功のための習慣

パ・リーグでは7年連続首位打者の座を譲らず、メジャーリーグに移ったあともMLBシーズン最多安打記録やプロでの通算安打世界記録など、驚異の実績を残し続けるイチロー選手。

今や誰もが認める成功者と言えますが、プロ野球入団当初から「天才」「逸材」と騒がれていたわけではありません。

スポーツ選手には非常に重要な、体格に恵まれているわけでもありません。

まさに「努力の天才」。他人には計り知れない並ならぬ努力があったのだと思いますが、そのひとつとして挙げられるのは「習慣化するための努力」ではないでしょうか。

イチロー選手の習慣と精神
高校時代は、毎日10分間の素振りを3年間続けたそう。素振りという行動を毎日繰り返すことで、意識せずとも正しいフォームで打てるようになり、その質も日ごとに高まっていったのでしょう。
また、技術面のみならず、「誰よりも継続した」という自信にもつながったと言います。スポーツに限らず、基礎を毎日繰り返し行うことは、技術面でも精神面でもレベルアップにつながるわかりやすい例だと思います。 打席前に行う独特の素振りも、有名な習慣。こちらは専門用語でプレ・パフォーマンス・ルーティンと呼び、単なる精神統一や験担ぎではなくパフォーマンス向上に影響すると、スポーツ心理学で証明されています。

ルーティンを何度も集中して行うことで、そのあとのプレーがスムーズになったり、周りの物音や不安が気にならなくなったり、ストレスが減ったりします。

「朝起きたらその日の『メインイベント』を設定し必ず実行する」とのこと。

たとえば、「何時から何時まではトレーニングをする」と決めたら、どんなに疲れていても、食事の誘いがあっても、意志を貫いて決めたことを実行するのだそうです。

『なぜ、成功者たちは「フシギな習慣」を持っているのか? すぐできる医科学的にも正しい成功法則44』(著者:濱栄一氏、出版:宝島社)

これは、短期的な小さな目標にも、長期的なビジョンにも応用できそうな方法。いきなり壮大な「メインイベント」を設定するのは無理があるかもしれませんが、将来的なビジョンを達成するためのKPIを設定し、それを日々の小さな「メインイベント」として掲げ地道に実行していくことで、着実にゴールに近づけます。

これは「自分で決めた事柄は必ず実行する」ことを習慣化する、ということであり、ゴールまでにすべきことが細分化されていればいるほど実行しやすいと言えるでしょう。

  • 基礎を繰り返し行い、技術と精神を高めていく
  • 自分なりのルーティンを行い、パフォーマンスの質を上げていく
  • あらかじめ決めたイベントを必ず実行し、目標達成に近づけていく

これらの習慣が、イチロー選手の輝かしい活躍の背景にあると言えるのではないでしょうか。

3. 羽生善治に学ぶ、成功のための習慣

将棋界のレジェンドとして知られる羽生善治氏。

15歳でプロ入りし、25歳で将棋界初の7タイトル独占という快挙を成し遂げ、46歳(2017年3月現在)にしてなお多くのタイトルを獲得し続けている現役棋士です。

羽生氏は、初めて訪れる場所にあえて地図を持たずに行くことがたびたびあるそう。住所から道順を推測したり、道行く人に尋ねたりしながら、自力で目的地までたどり着くのだそうです。

なぜそうするのかというと、「野生の勘」を磨くため。

ただし、羽生氏が言う「勘」とは単なる直感や当てずっぽうではなく、「考える力」のことではないかと思います。

自分の知識や経験のなかに答えがない場合でも、さまざまな情報をかき集めて答えを導き出したり、新しいことを生み出したりする力。

そうした力を普段から磨いておくことで、予期せぬ事態が生じたときも、壁にぶつかったときも、過去の自分に頼らず乗り越えることができる。

そういう意味では、「考えることを習慣化する」ことが、羽生氏の言う「勘」につながるのかもしれません。

ひと昔前を思い返すと、今では考えられないほど不便な時代でした。

道に迷っても地図アプリなんてなかったし、意味のわからない言葉があれば分厚い辞書をめくる必要がありました。コミュニケーションをスタンプひとつで済ませることもなかったですし、今日の献立をレシピサイトで検索する術もありませんでした。

しかし裏を返せば、それだけ「考える」余地があったということ。

羽生氏のように住所だけを頼りに行き方を考えたり、漢字の組み合わせや前後の文脈から言葉の意味を考えたり、相手を不快にさせない伝え方を考えたり、残りものの食材でおいしい料理をつくる方法を考えたりしていたはずです。

そしてやがては、それらを考えなくてもできるようになり、別の問題に直面しても応用できるようになる。成功するためのあらゆる知識を身につけるより、現実的で効率的な方法と言えます。

「考える」余地をあえてつくり、「野生の勘」を磨いていく。

その習慣が、成功というゴールに近づくための対応力や判断力や解決力を養ってくれるのではないでしょうか。

4. 北野武に学ぶ、成功のための習慣

「世界のキタノ」と呼ばれるまでに才能を開花させ、多方面で名を馳せている北野武氏。

コメディアン、映画監督、俳優、司会者、画家などとしてマルチに活躍する様は、ビジネスパーソンとしてもアーティストとしても大きな成功をおさめていると言って差し支えないでしょう。

そんな北野氏の逸話に、「トイレ掃除」のエピソードがあります。

若手時代に師匠から命じられて以来、自宅だけでなくロケ先・公園・居酒屋などあらゆる場所で、30年以上にわたってトイレ掃除を続けてきたとか。

実はこのトイレ掃除、北野氏のほかにもさまざまな著名人が習慣にしています。松下幸之助氏、本田宗一郎氏といった一流経営者をはじめ、タモリさんや和田アキ子さんなどもそう。

さらにライオン株式会社の調査によれば、トイレを清潔に保っている人の世帯年収は、トイレが汚い人の世帯年収よりも約90万円高いという驚きの結果が出たそうです。

トイレ掃除の習慣がなぜ成功に結びつくのか。諸説あるとは思いますが、ひとつ挙げられるのは「謙虚さ」というキーワードではないでしょうか。

北野氏はあれだけの成功をおさめていながら、「自分には人より才能があるとは思えない」と語っています。

自分の好きなことをやっているだけなのに世の中から評価されるのは、才能のせいではなく、トイレ掃除を続けてきたからではないか、と。

本当に才能がないかどうかはともかく、世界的に名声を得ていながらここまで言い切れるのはすごいことです。

また、人があまりやりたがらないことを、有名になった今でも愚直にやり続ける姿勢は、まさに謙虚と言えるでしょう。

  • 松下幸之助氏は、松下電器がまだ町工場だった頃、誰もやろうとしないトイレ掃除を自らやったことで「モノをつくるだけでなく掃除もできるような人間をつくらなければ」と気づいたそう。
  • イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏は、社長自ら率先して社内の掃除を始めたことで協力する社員が増え、社内の雰囲気がどんどんよくなり業績も上がっていったと言います。

誰もやりたがらないことを率先してやり続ける。その行為は、謙虚で、誠実で、細かいところにまで気が回る人間を育てます。

そういう人は、何かを極めたり、周囲から信頼を得たり、他人が思いつかないようなことをひらめいたりするのに向いています。

アメリカの経営学者の名著『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(著者:ジェームズ・C・コリンズ、訳者:山岡洋一、出版:日系BP社)では、偉大さを維持できる企業をつくりあげることのできる指導者(第五水準の指導者)は、次のような思考を持っているとしています
第五水準の指導者は成功を収めたときは窓の外を見て、成功をもたらした要因を見つけ出す(具体的な人物や出来事が見つからない場合には、幸運をもちだす)。
結果が悪かったときは鏡を見て、自分に責任があると考える(運が悪かったからだとは考えない)。

うまくいっても決しておごらず、自分の能力を過信せず、謙虚でいること。

そうした考え方や姿勢が習慣化されれば、プロフェッショナルとして、あるいはリーダーとして、レベルアップしていくことができるでしょう。

その一例が、北野氏をはじめ多くの成功者が実践している「トイレ掃除」であるというわけです。

おすすめの本

著名人数名の習慣を例に、成功の秘訣を探ってきました。このほかにも参考になる実例がたくさんありますので、興味のある方はぜひ書籍でさまざまなエピソードに触れてみてください。成功者の共通点や、習慣が与える影響について、さらに深く知っていただけると思います。

『なぜ、成功者たちは「フシギな習慣」を持っているのか? すぐできる医科学的にも正しい成功法則44』

濱栄一/宝島社/2013年

本記事で紹介したイチロー選手をはじめ、アインシュタイン、ココ・シャネル、ビル・ゲイツ、タイガー・ウッズ、ヘレン・ケラーなど、さまざまな分野の成功者たちの「フシギな習慣」を紹介した1冊。単に習慣をまとめただけでなく、医科学的な根拠や研究データをもとに検証されており、納得度の高い内容となっています。ユニークな習慣も多いので、読みものとしても面白く取っつきやすい本だと思います。

■『「イチローの成功習慣」に学ぶ』

児玉光雄/サンマーク出版/2010年

こちらはイチロー選手にフォーカスした内容。イチローの成功の秘訣を「特別な能力」ではなく「日々の習慣」であるとし、思考や行動の習慣を具体的に紹介しています。スポーツ選手でなくとも当てはまるような内容も多いため、ビジネスや生活に応用しやすい点がポイントです。

■『完訳 7つの習慣 25周年記念版』

スティーブン・R・コヴィー/フランクリン・コヴィー・ジャパン(訳)/キングベアー出版/2014年

世界3000万人が手に取った名著の、原著発刊25周年を記念した新訳版。リーダーシップ研究の第一人者である著者が、ビジネスや家庭での例を挙げながら、人生における「成功の原理原則」をまとめています。著者の来日講演の様子を収録したDVDつき。ページ数が多く内容も少し難解なため、読みやすさを求める方には『まんがでわかる 7つの習慣』もおすすめ。

■『自分を変える習慣力(Business Life 1)』

三浦将/クロスメディア・パブリッシング/2015年

続けたいのになかなか習慣化できない原因を、「潜在意識の強烈な抵抗を受けているから」と定義。「たった1つの習慣を変えるだけでOK」「不必要な習慣をやめる」といった実践しやすい方法が紹介されているので、今の生活を見直すきっかけになると思います。オリンピック選手や有名経営者のメンタルコーチも務める著者ならではの、信憑性のある内容です。英会話、朝活、ダイエットなどが続かなくて悩んでいる方にもおすすめ。

まとめ

先ほどの書籍紹介のなかで、習慣化したいのになかなか継続できない原因について少し触れました。人間の脳はそもそも、新しいことに消極的な傾向にあります。安全な現状を変えてまで新しいことをする必要はないと、潜在意識がストップをかけるためです。

しかし、習慣を味方につけている成功者たちは、脳の働きを逆に利用して習慣化するコツを身につけています。いきなり難しいことを始めようとすると、脳がその行為に「辛い」「面倒」といったネガティブなレッテルを貼ってしまうので、気持ちよく行えるくらいにハードルを下げたり環境を整えたりする。一定期間続けられたら自分にご褒美を与えるなど、モチベーションを維持できる工夫をする。そうしたコツにより、新しいことを継続しやすい状況を自らつくり出しています。

あなたにとっての成功とは何でしょうか。そして、そこに到達するために必要な行動や考え方とは何でしょうか。成功者たちが実践している習慣や、習慣化するためのコツからヒントを得て、自分なりの「成功のための習慣」をぜひ探してみてください。