マーケティングという言葉や概念が、ビジネスにおいて広く使われるようになりました。

マーケティングとは、顧客や市場(社会)に活かされ、支持されるために、企業の持つ経営資源を総合的に結びつける「戦略行動」です。つまり、経営戦略そのものと言っていいでしょう。

売上不振や企業低迷の原因は、ひとつしかありません。顧客不満足です。顧客の支持が得られなくなったから、顧客満足指標のひとつである「売上」が立たなくなってしまいます。

本記事では、マーケティング戦略を通じて、顧客満足を満たし、売り続けるための基本テクニックについて考えていきます。




1.企業変革の原点はマーケティングにある

長く低迷していた企業が再び復活を遂げたという事例はいくつかありますが、代表的な例にアサヒビールがあります。今日ではもはや神話化されていますが、アサヒスーパードライによるビール業界でのシェア復活の成功事例は、マーケティング戦略に大きなヒントを与えてくれました。

時代の変化を的確に捉えた、その復活神話の本髄に迫りながら、マーケティング戦略を考えていきます。

1-1.マーケティングは企業を変身させる

市場シェアのトップブランドであったアサヒビールは、1984年には年間出荷量で9.9%と史上最低のシェアになりました。

翌年、当時の村井勉社長は業績回復のために新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)を設定しました。起死回生のために会社をあげての企業変革作戦「ニューセンチュリー計画」では、次の4点に取り組みました。

  1. 新企業イメージの創出
    市場や顧客から期待感を受けるような企業イメージをつくること
  2. 消費者指向の製品開発
    独断的な製品開発(プロダクト・アウト)から消費者にすべての物差しを当てたマーケット・インの商品づくりに徹すること
  3. 市場とのコミュニケーション
    企業の考え方、商品の特性、長所などを、情報発信を通じて市場や消費者に最大限にアピールすること
  4. 徹底した品質管理
    商品づくりにおける品質管理もさることながら、流通過程における品質管理(フレッシュローテーション)を徹底すること

主体になるのが「消費者の求める商品を提供する」という消費者志向でした。製造部門のつくったものを営業部門が黙って売るといった形を打破し、後に生まれたスーパードライは、ビールの流れを大きく変え、アサヒのシェアトップ復活の成功につながりました。

1-2.企業変革のための視点とは

これら4つは、すべてマーケティング活動に関わるものです。

1.は、新しい経営理念に基づいたブランド戦略や、新製品開発、広告やPRあるいはサービス活動などに関連します。いかに伝統や歴史があっても、それが継続的な革新的行動の結果として認識されないと、「時代に適応した企業」というイメージを構築することができません。

2.は、文字通り、製品計画や開発に関連します。同社は、歴史的に製造部門主導型の戦略をとってきました。そのため、いつの間にか製造の論理が優先され、市場(消費者)の論理や常識が見落とされていたのです。

そこで同社では、企業の原点である「顧客」に活かされるために5000人に消費者嗜好調査を行いました。この時に得られた消費者の好みが「口に含んだ時の味わいと喉越しの快さ」「コクとキレ」。それまでの「重くて、苦い」といった本格派のビールのイメージとは違ったものでした。

3.は、ブランド戦略に基づいた広告や人的販売活動などのマーケティングコミュニケーション、4)は、フレッシュローテーションを確保するための流通チャネルの整備や流通の高度化などに関連します。

アサヒビールが変身できた最大の要因は、まさにマーケティング戦略の重要性を意識したことにあったと言えるでしょう。

2.具体的なマーケティング戦略の基本ステップ

基本的なマーケティング戦略のステップとして、STP(STP戦略、STPマーケティング)という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

マーケティング学者の中でもっとも影響力のあるコトラーが、STPを「効果的に市場を開拓するためのマーケティング手法」として紹介しています。より具体的にいえば、マーケティングの目的である「自社が誰に対してどのような価値を提供するのか」という問題を明確にするために利用するものです。

マーケティングは、伝える相手を決めただけではだめですし、伝えるメッセージ、タイミングなどすべてを包含して考える必要があります。しかし、自社と市場関係を明確にするために、こうした手法を使うことは有効です。

コトラーは、市場における自社の競争優位性を設定するために、

  • 市場を細分化して(Segmentation)
  • ターゲット層を抽出し(Targeting)
  • ターゲット層に対する競争優位性を設定する(Positioning)

ことが重要だと説きました。それではひとつずつ見ていきましょう。

2-1.Segmentation(セグメンテーション)

最初はセグメンテーション(セグメント化)です。

もちろん多くの人を顧客にしたいと考えるものですが、現実には誰もが同じ商品を買うことはないわけで、マス市場からニッチ市場へシフトしていかなくてはいけません。そのため、さまざまな角度から市場調査し、ユーザー層や購買層といった形であぶり出し、明確化していきます。

セグメンテーションに用いられる変数として、およそ次の4つが使われます。

それは「人口動態変数(Demographic Variables)」「地理的変数(Geographic Variables)」「心理的変数(Psychographic Variables)」「行動変数(Behavioral Variables)」です。

「デモグラフィック(Demographic)」は言葉として聞いたことのある方も多いと思いますが、年齢や性別、職業など属性的要因で区分する手法です。その他、「ジオグラフィック(Geographic)」は居住地など地理的要因で区分し、「サイコグラフィック(Psychographic)」は趣味など心理的要因で区分します。

最後の「行動変数」は、購買状況や使用頻度、購買動機、購買パターンなど、製品に対する買い手の知識や態度などによって顧客を分類するための基準です。

2-2.Targeting(ターゲティング)

続いてやることはターゲティング(ターゲット選定)です。

セグメント化した結果、自社の参入すべきセグメントを選定、すなわちターゲットを明確にすることを指します。

ターゲットの選定には、自社の強みを活かせたり、競合する他社がいないセグメント(ブルーオーシャン)を選択することが大事です。ターゲットの規模については会社の規模などにもよりますが、一般的には市場全体の2割程度を目安にすることがいいと言われています。

しかし、あくまでも自社が提供できる価値と、顧客が求めるニーズがどこでマッチするのかを考えましょう。

2-3.Positioning(ポジショニング)

最後はポジショニングです。これはいわゆる「差別化」とは異なります。

差別化はきわめて企業側の利己的な視点であり、自社と他社の比較でしかありません。それに対して、ここでいうポジショニングはターゲット層から見たときの「優位点(優位性)」のことです。消費者にとって対価を支払ってもよいと思えるだけの価値や魅力があるのか、その観点で考えます。

言い換えれば「差別化」とは「機能提案」にすぎません。自社の特徴を顧客視点で捉え直し、「用途提案」するわけです。その意味では、キャッチコピーはポジショニングを象徴しているといえます。

またポジショニングは、市場全体を意識する必要はありません。あくまでもターゲット層にとってどうであるかが問われています。アプローチすべきターゲット層にどんな不満があるのかを事前に把握しておかないと、訴求ポイントを見つけることが難しくなります。

ポジショニングが不明確なままだと、その後のマーケティング戦略がぼやけてしまいます。そのためにもSTPの最終ステップとして可能な限り具体的にしなければなりません。

3.マーケティングの4P戦略

次に、ターゲットとなる顧客に「何を」「いくらで」「どこで」「どのようにして」売るのかを決定していく「4Pのプロセス」を見ていきます。

4Pとはマーケティング戦略の頭文字を取って名付けられたもので、別名マーケティングミックスとも呼ばれています。マーケティングでは、この4つのP、すなわちProduct(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の4つの戦略を組み合わせて最大の効果を目指していくことになります。

それではここでマーケティングの中核を成す4P戦略について紹介していきます。

3-1.Product(製品)戦略

まず「顧客に対して何を売るのか?」という製品戦略を検討する場合、「自社の売りたい製品を販売する」という視点ではなく、「ターゲットとするお客様が買いたい製品を販売する」という視点が重要になってきます。

大量生産・大量消費の時代は、企業が製品を作れば売れるというマーケティング不要の時代でした。しかし、現代のようにモノが溢れ、ほとんどの市場で成熟期を迎えている状況では、顧客は本当に必要なものや欲しいと感じるものにしか財布の紐を開いてくれません。

そこで製品戦略ではターゲット顧客のニーズを詳細に分析して、本当に欲しいと思わせる製品を開発し続けることが重要なポイントになります。

3-2.Price(価格)戦略

価格戦略とは、言うまでもなく「いくらで売るのか?」という価格設定を行なうことです。4P戦略のなかでも非常に重要な要素となります。

なぜなら、価格は企業にとっては売上や利益に直結していますし、顧客にとっては購入に対してのハードルになるからです。

たとえば、低い価格設定は顧客にとって購入に対するハードルを低くする効果を発揮するでしょう。しかし、企業にとっては低価格で利益を上げる仕組みを構築しておかなければ、売上だけは上がっても低い収益に苦しむことに繋がりかねません。

逆に高い価格設定は企業にとっては高い収益を上げるためには好都合かもしれませんが、顧客にとっては購入に対するハードルが高くなるという結果となります。

企業が価格を設定する際には、製品を提供するコストをベースに検討することはもちろんのこと、ライバル企業の価格設定など市場環境を十分に考慮に入れながら、最適な価格を決定することが重要な鍵を握ることになります。

3-3.Place(流通)戦略

流通戦略とは、「どこで売るのか?」を決定していくことです。

いくら素晴らしい製品を手頃な価格で提供しても、実際にその製品が適切な形で店頭に並んでいなければ購入されることはありません。流通戦略では、ターゲット顧客の特性に応じて最適の流通網を築いていく必要があります。

たとえば、若者がターゲットであればコンビニエンスストアが主要な流通網になるかもしれませんし、富裕層がターゲットであれば百貨店が効果的な流通網になるでしょう。ターゲット顧客の行動を分析して、最も接触が図れる流通網を整備することによって、スムーズに製品の販売が実施されるという点からも、流通戦略の重要性がうかがえます。

3-4.Promotion(プロモーション)戦略

最後は「どのようにして自社製品を知ってもらうか?」というプロモーション戦略です。

現代ではテレビや新聞、ラジオ、雑誌、インターネットなど様々なマスメディアがあり、プロモーション戦略で活用することができます。自社製品の認知度を高めるためには、マスメディアを活用して、不特定多数の消費者にアピールすることが有効になります。

プロモーション戦略の一環として、フロントエンド商品とバックエンド商品の考え方についても触れておきます。

フロントエンド商品とは「集客商品」で、バックエンド商品は「本命商品」です。フロントとは前、バックとは後ろ、の意味。買ってもらいやすい集客商品を一度買ってもらい、価値を感じてもらった後に、利幅の大きい本命商品を紹介し買ってもらう、という手法です。

有名な例としては、居酒屋のランチがフロントエンド商品で、夜の飲み会はバックエンド商品、ファーストフードやコンビニの100円コーヒーがフロントエンド商品、ハンバーガーやお弁当がバックエンド商品。英会話スクールの無料体験レッスンがフロントエンド商品で、有料レッスンがバックエンド商品、という具合です。

フロントエンド商品

  • 最初に出す商品やサービス。
  • 比較的安価、無料。
  • 見込み顧客を集めることを重視する。
  • 利益は考えない。

バックエンド商品

  • フロントエンド購入後に出す商品やサービス。
  • 比較的高価。
  • 本命商品を販売する。
  • お客様の質を重視する。
  • 利益を上げるためのもの。

特にWebマーケティングでは、フロントエンド商品の購入の際に顧客情報が得られるため、バックエンド商品の告知がしやすいことから、特に重要視されています。

中小・ベンチャー企業の場合は、商品・サービスのブランド力が弱いため、指名買いを得ることは難しいことが大半です。また競合他社との比較にさらされても、なかなか安心感や信頼感が得られず、ユーザーに選んでもらいづらいというハンデを常に負っています。

Webでの検索連動型広告を例にとってみても、社名やブランド名での指名検索が少なく、一般キーワードでの比較にも弱いという状態では、漫然と広告を実施しても当然苦戦します。そこで、Webマーケで成功している多くの中小・ベンチャー企業は、競争に勝つためにちょっとした工夫をしています。それが、「フロントエンド商品」の設計です。

以上、「何を」「いくらで」「どこで」「どのようにして」という4P戦略を見てきましたが、これらの戦略は単体で機能するものではなく、組み合わせによって効果を発揮します。これが「4P=マーケティングミックス」と呼ばれる所以です。

4.タイプ別マーケティングミックス

最後に本項では、競合他社との差をつけるために「流通網強調型マーケティングミックス」の効果についても述べておきましょう。

4-1.流通網強調型

流通網強調型マーケティングミックスは、資金力やブランド力のある企業がさらなる競合との差別化を図るために実施する戦略のひとつです。自社商品を取り扱ってくれる流通業者や販売業者を増やし、消費者との接触機会を競合に比べ圧倒的に増加させていく戦略です。

たとえば日本コカ・コーラグループは、日本の清涼飲料市場において圧倒的なマーケットシェアを誇ります。この背景には、流通網強調型マーケティングミックスがあります。

日本コカ・コーラグループは日本全国に自動販売機を設置し、ライバル他社を圧倒する流通網を築いてきました。もちろん同社の自動販売機では他社製品の入り込む余地はありませんでした。すなわち、自動販売機の流通網はコンビニなどとは違い、日本コカ・コーラグループの独占販売網と言えます。

この圧倒的な自動販売機の設置による流通網の強化が、揺るぎない清涼飲料水業界No.1の地位確保に大きく貢献しています。

4-2.価格強調型

トップ企業を追いかけるならば「価格強調型マーケティングミックス」を利用できるでしょう。

価格強調型マーケティングミックスは、マーケットに圧倒的なトップブランドが存在する場合に、2番手以下が採用する戦略の1つ。トップブランドと同等レベルの製品を開発し、価格に割安感を持たせることで消費者の購買意欲を刺激して、マーケットシェア向上を図る戦略です。

価格強調型マーケティングミックスでは、コストを削減して低価格を実現することが成功の鍵を握ります。この観点からテレビコマーシャルなど派手なプロモーション活動は控えることが一般的。マスメディアを活用したプロモーション戦略よりも、店頭で競合商品と隣り合わせのスペースに陳列するという流通戦略を重視し、お客様が購入前に実際に手にとって価格を比較検討して購入に至ることを期待します。

たとえばコーラを例に取ると、現在コカコーラは350ml缶で120円の定価になっています。一方でアメリカから輸入したプライベートブランドのコーラに40円の価格設定を行なって、コカコーラと同じ棚に並べるスーパーマーケットもあります。ブランド力では到底力の及ばない2番手以下の企業は、このように価格で消費者に訴えかけ購買を喚起する戦略が効果を発揮します。

4-3.プロモーション強調型

商品の差別化が難しい場合は、「プロモーション強調型マーケティングミックス」で事態の打開を図ることができます。

プロモーション活動強調マーケティングは、商品やサービスの差別化が難しい場合に採用されるマーケティング戦略のひとつです。商品での差別化が難しいために、有名タレントをコマーシャルに起用してイメージ的な差別化を図ったり、応募シールを集めると豪華賞品が当たるという懸賞企画を立てたり、商品そのものよりもプロモーション戦略を駆使して消費者を魅了していきます。

缶コーヒーなどにこのタイプのマーケティングがよく見られます。缶コーヒーはブルーマウンテンやモカなどのコーヒー豆、ブラックや加糖などの味覚の違いこそあれ、メーカー間で差別化をすることが難しい商品と言えます。

このような状況で、自社の商品を選んでもらうためには、有名タレントを起用して消費者にそのブランド名を植え付けたり、ポイントシールを貯めることにより豪華商品が当たるというキャンペーンを実施したりといった、プロモーション活動を展開することが効果的です。

マーケティングにおいては、このように取り扱う商品の特性や競合の状態など業界の事情に応じた独自のマーケティング戦略の組み合わせ、つまり、自社に最適なマーケティングミックスの実施が求められます。自社を取り巻く環境に応じた製品・価格・流通・プロモーション戦略を適切に組み合わせることによって、売上を上げるという企業にとっての1つの重要な目的を達成することができるのではないでしょうか。

5.おすすめの本

『究極のマーケティングプラン シンプルだけど、一生役に立つ!お客様をトリコにするためのバイブル』|著・ダン・ケネディ

新進気鋭のベンチャーから、2億ドル級の売上を誇る大企業トップまで、約100の企業とコンサルタント契約を結んでいる著者が教える、儲けの原理・原則。「超」実践的な「究極のマーケティングプラン作成シート」付き

『「紫の牛」を売れ!』|著・セス・ゴーディン

ベストセラー『パーミッションマーケティング』のセス・ゴーディン待望の新作・日本上陸。これが「群れの中で抜きん出る」法則。

『ポイント図解 マーケティングのことが面白いほどわかる本』|著・江口泰広

「マーケティングって何?」から最新のマーケティング戦略までを網羅。最初に読むべき1冊。

『最新マーケティングの教科書 』日経BP社

本書はマーケティングの基本から最新トレンドまでを、29のキーワードとデータでわかりやすく解説する完全保存版の「教科書」。

6.まとめ

いかがだったでしょうか。商品を売り続けるためのマーケティング戦略の基礎についてまとめてきました。

マーケティングとは、企業の総合力を通じて、顧客価値をつくるための経営戦略そのものです。本記事が、マーケティングの仕事に従事する方にとって物事を俯瞰するきっかけとなったり、未来のマーケターたちの参考となれば、嬉しい限りです。

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