突然ですが、人前で話すことは得意ですか?

自信をもって「得意だ」と断言できる方は少ないのではないでしょうか。

しかし、人前で話す機会は突然やってきます。たとえば、社内でのスピーチ、商談先でのプレゼンテーション、飲み会の締めの挨拶などもそうですね。

事前準備をして、場数を踏めばそれなりに対応はできるようになりますが、相手や聴衆の記憶に残るような印象的な話をできるようになりたいなら、知っておきたいのが「ストーリーテリング」です。

ストーリーテリングとは、あなたが何かを伝えようとしたときに、伝えるテーマに関連する体験談やエピソードを交えて話すことで聞き手の印象に残りやすくするための手法です。

具体例を挙げると、Apple創業者スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行なったスピーチはストーリーテリングが用いられたプレゼンテーションの代表格。

義理の両親に育てられた子どもが、Appleを創業し、成功を収めるまでのストーリーは、まるで映画やドラマのよう。卒業する学生に、単に「社会へ出ても、がんばってください」とエールを送るよりも、心に残る伝え方だったといえます。

つまり、ストーリーテリングをマスターすれば、聴衆をあなたのプレゼンテーションに引き込むことができるわけです。

では、ストーリーテリングを日常のコミュニケーションで活かそうと思ったらどうすればいいのでしょうか。

まず、シーン別のストーリーテリングの活用例を見ていきましょう。




1.シーン別ストーリーテリング活用例

ストーリーテリングの活用方法は、シーンによって異なります。

それぞれどのように活かせばいいのでしょうか。まずは代表的なシーンを例に挙げて活用方法をご紹介します。

クライアントへのプレゼン

商談でクライアントへ自社の商品やサービスのメリットを伝えるとき、あなたはどのように伝えていますか?

単に自社商品・サービスのメリットを伝えるだけでは、相手の印象には残りづらいかもしれません。

ポイントは、プレゼンテーションにストーリー性を持たせることです。

「メリットを伝えるだけではNG」

「ストーリー性を持たせる」

と言われてもピンときませんよね。

そこで、具体例をご紹介しましょう。あなたはホームページ制作会社の営業。

プレゼンの相手は、あなたがホームページ開設を提案したいと考えている中小メーカーの担当者です。

<NG例>
「ぜひホームページを開設しましょう。ホームページがあればそこから問い合わせいただくこともあるので、新たな顧客の獲得につながるかもしれませんよ!」

<OK例>

「先日、街を歩いていたらすごくステキなレストランを見つけたんですね。でも、どんなメニューを扱っているかわからなかったので、その場でスマホで店の名前を検索したんです。ところが、ホームページがなかったんですよ。だから結局何のレストランなのかわからなかったので、足を運ぶことはありませんでした。レストランからしてみたら、私という客を逃したことになるわけです。御社には、そういうことを経験してほしくないんですよね。だから…」

単にホームページを開設することのメリットだけを伝えるのではなく、自分自身の経験談を交えて伝えるほうが相手の心に残りやすい印象を受けるのではないでしょうか。

部下や組織への意識共有 

舞台はオフィス。部下の前で、もしくは部署の朝礼などで自分の考えや会社の考えなどを伝えなければいけないと思ったらどうしますか?

ありのままに「こうするべき」「これが会社の考えだから」などと伝えているのではありませんか?

自分が聞く側に立つときのことを思い出してみてください。トップダウンで伝えられても、なかなか納得できませんよね。

そこでストーリーテリングの出番です。

具体例を紹介しましょう。あなたはエンジニアを束ねるリーダー、聴衆はエンジニアです。

<NG例>

「集中できるからといって、勤務時間中にプログラミングしながらイヤホンで音楽を聴くのはやめましょう。周りの部署からの見え方も良くないです」

<OK例>

「私の尊敬するスポーツ選手の話をします。彼はサッカー選手なんですけど、以前アウェイのスタジアムでPKを何本も決めたんですね。アウェイなので敵チームのサポーターからのブーイングがすごいんですよ。私だったら絶対に心が折れてしまうと思います(笑)。試合終了後、彼はインタビューされました。“あのブーイングのなかでよく落ち着いてゴールを決められましたね”って。そうしたら彼は“集中してたので全然気になりませんでした”って言い放ったんです。まさにプロですよね。私も、どんな雑音のなかでも自ら集中力を高められる存在でありたいと思います。だから…」

トップダウンで伝える説教臭さもなくなりますし、スポーツ選手のように誰もが知っているキャラクターを介すことで印象に残りやすくなります。

スピーチ

オフィスから居酒屋へと舞台を移しましょう。

あなたは、自分の部下が異動することになり送別会に参加しています。宴もたけなわというタイミングで依頼されたのが、部下への送別の言葉。

しかし、お酒の席ということもあり、月並みなメッセージを送ったところで部下の心には残りにくいかもしれません。

そんなときにあなたを助けてくれるのがストーリーテリングです。具体的な活用方法をご紹介します。

<NG例>

「東京から大阪という土地へ行くことになり、不安や緊張もあると思います。しかし、大阪支社の仲間たちはいい人ばかりだし、“住めば都”という言葉もあります。ぜひ、大阪を楽しんでください」

<OK例>

「ある人の話なんですが、その人は入社してすぐに大阪への異動を命じられました。最初はすごく嫌がっていたんだけど、行ったら行ったで食べ物も美味しいし、一緒に働く人たちのノリも面白いということで大阪に永住しようと思ったそうです。で、そこで彼女も見つけて、いよいよ…と思った矢先に東京への異動を命じられて、結局彼女とも自然消滅してずっと独身という男性がいます。ま、私なんですけど(笑)。とにかく大阪はすごくステキな街なんで、すぐに馴染めると思います。安心して行ってきてください!」

いかがでしょうか? ちょっとした失敗談を交えて話せば笑いも誘えますし、シンプルにエールを贈るよりも納得性が高まります。

講演 

あなたは会社の代表としてある講演で登壇することになり、100名近い聴衆の前で話すことなりました。

話すテーマは、「顧客第一主義を実践するために」。講演ではどのようにストーリーテリングを活用すればいいのでしょうか。具体例を交えて考えてみましょう。

<NG例>

「顧客第一主義を実現するためには、社内の目線を合わせることが重要です。そのためにも日々上司・部下とコミュニケーションを取り、現状の確認と、意見のすり合わせを行なっています」

<OK例>

「私は高校時代、サッカー部に所属していました。運良く県大会の決勝まで上り詰めることができたんです。しかし、私が不注意でやってしまった、たった1回のパスミスが原因で、試合は惜敗。残念ながら、全国大会の切符を手にすることはできませんでした。会社経営もコレと同じだと思うんです。いかに全社員の目線を合わせることができるか。顧客第一主義という目標を果たすために、日々上司や部下、同僚とコミュニケーションを取り、一致団結して取り組めるようにしています」

単に「こんなことをやっています」という話をするよりも、イメージしやすいのではないでしょうか。

聴衆が多いので、誰でも理解しやすいストーリーを選ぶことがポイントです。

ダイレクトメール 

あなたは既存顧客向けにダイレクトメールを送ることになりました。

Facebookページ運用のコツを発信し、顧客が何かこまったときに問い合わせてもらえる関係性を築くことが狙いです。

実は、メール文面においてもストーリーテリングが活用できます。具体例を交えてご紹介します。

<NG例>

「こんにちは。○○株式会社です。Facebookページ運用のコツをご紹介します。1つ目は〜」

<OK例>

「こんにちは。○○株式会社営業部の藤田です。実は私、個人的にブログをやっているのですが、昨日の夜ついにFacebookファンページへのいいね!数が100を突破しました! 3年も続けてたった100いいね!かと思われるかもしれませんが、やっぱり嬉しいですよね。改めて続けていくことの大切さを学びました。さて、みなさんはFacebookページの運用で悩んでいませんか? 今回ご紹介するのが〜」

淡々と運用のコツだけを紹介するよりも、どのような人が紹介してくれるのかがわかったほうが興味を持ちますよね。

メールという顔の見えないコミュニケーションだからこそ、キャラクターをイメージしてもらうということはとても大事。

それが信頼になり、ブランドになるからです。

2.心理学から見る、ストーリーテリングが効果的な理由

さて、いくつかシーン別のストーリーテリングの実例をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?

なんとなく、ストーリーテリングが有効な手法であるということがおわかりいただけたのではないでしょうか。

では、ストーリーテリングがなぜプレゼンテーションにおいて有効な手法なのか、心理学の視点から考えてみたいと思います。

人はストーリーに触れると心の距離が縮まる 

何かストーリーを語られると、人は自分の経験のなかから同様のものを探そうとします。

冒頭でご紹介したスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションを思い出してみてください。

聴衆が彼のストーリーに惹かれていった背景にあるのは、彼がどのような人生を歩んできたのかが想像できたこと。

想像するとき、人は自分の経験のなかから同様のものを探そうとします。その結果、プレゼンターとの距離が縮まっていくような錯覚に陥ります。

ストーリーにはインパクトがある 

一般論を語られるよりも、ストーリーのほうが聴衆に与えるインパクトは強いといえます。

人は、プレゼンターの生い立ちや苦労話には興味があるからです。TBSの「情熱大陸」という番組は、まさにストーリーテリングそのもの。

特に「情熱大陸」は有名人のストーリーを介しているため、一般論の何倍も心に刺さるのではないでしょうか。

ストーリーテリングを用いれば聴衆の右脳に届く

情報のみを淡々と伝えるプレゼンテーションは退屈ですよね。

理由は左脳のみにしか情報が届いていないからです。

好奇心やワクワクを刺激するような要素がないため、左脳にしか届かないと言われています。

一方、ストーリーテリングを用いると右脳に届くようになると言われています。

左脳と右脳、両方の脳でプレゼンテーションを理解しようとすることが、印象に残りやすいといわれる所以です。

3.聴衆を魅了するストーリーテリングを実践するために

心理学の視点からも有効な手法だと言われているストーリーテリング。

しかし、いざ自らストーリーを考案しようと思ったらどうすればいいのでしょうか。

聴衆を魅了するストーリーを考えるために意識したいポイントをご紹介します。

ネタを仕入れておく 

常日頃からネタとなるエピソードは積極的にインプットするようにしておきましょう。

歴史上の人物、成功しているビジネスパーソン、プロのアスリート、アーティストといった偉人・有名人のエピソードは収集しておいて損はありません。

メモなどに「誰のエピソードか」「エピソードのサマリ」「どのようなテーマで使えそうか」などを記しておけば、いざというときに役立ちます。

聞き手に伝えたいテーマをきちんと届ける 

勘違いしがちなのが、ストーリーを考案すること自体が目的になってしまうという点です。

ストーリーテリングとは、あくまでも伝えたいテーマをより伝わりやすくするための手法にすぎません。

ストーリーを話すことだけを意識するのではなく、伝えるべきテーマがきちんと伝わるストーリーなのかを意識し、考案するようにしてください。

ストーリーに引き込む魅力的なワードを考えておく 

急にエピソードを話し始めてもそう簡単に聴衆は引き込まれません。

続きが気になってしまうような魅力的な出だしの文言を考えておくようにしましょう。

「自分のせいでチームが負けてしまうという経験をしたことがありますか?」

などはいかがでしょう。

相手が「もっと聞きたい」と思うような導入ワードを考えましょう。

他には、「最近○○が話題ですが…」というようにニュース性を意識した導入もおすすめです。

聞き手に合わせてストーリーをカスタマイズする  

社内の10人を相手にする場合と、社外の100人を相手にする場合とで、ストーリーはカスタマイズするほうがいいでしょう。

社内であなたのことを知っている人が相手ならば、あなた自身が経験したエピソードのほうが興味を持ってもらえる可能性は高くなるでしょう。

逆に、あなたのことを知らない社外の人たちに話すのであれば、あなた個人のエピソードよりも偉人や有名人のエピソードのほうが興味を持ってもらいやすいといえます。

また、ストーリー自体もテーマやトレンドに合わせてカスタマイズするようにしましょう。

ストーリーはシンプルに 

ストーリーを語ろうと思うと、ついついあれもこれもと話したくなってしまいますよね。

しかし、伝えるべきテーマに関係ないことは極力省略するようにしましょう。

あれもこれもと盛り込みすぎると情報量が増えてしまうため、伝えるべきメッセージが弱まってしまいます。

メッセージを際立たせるためにも、テーマは一つに絞ってください。足し算ではなく引き算でストーリーを組み立てるようにしましょう。

ストーリーにオチを用意する  

ストーリーテリングを行なうときには、きちんとオチを用意するようにしましょう。

オチのタイミングとは、聴衆の緊張感が緩む瞬間です。

ですから、オチを話すタイミングで、伝えたかったテーマや結論に着地させることがポイント。そうすることで聴衆の記憶に残すことができるのです。

話し方に抑揚をつける

せっかくストーリーテリングを用いても、淡々と語ってしまったら聴衆に面白いと思ってもらうことはできません。

内容に合わせて、抑揚をつけて話すようにしましょう。

しかし、本人は抑揚をつけているつもりでも、相手はそう感じていないということもよくある話です。

「自分はミュージカル俳優だ」というくらいの気持ちで極端に取り組んだほうが、相手には伝わるかもしれませんね。 

難しい言葉は極力避ける 

ストーリーテリングで大事なのは流れです。

リズムよく、まるで心地よい音楽を聴いているかのようにストーリーを届けることが重要です。

もしストーリーのなかに一度聞いただけでは理解できないような言葉があったらどうでしょう。

「え? どういう意味?」という疑問が生まれてしまい、その後のストーリーに耳を傾けることができなくなってしまいます。

横文字や難しい言葉を使いたくなってしまうものですが、ここはあえてわかりやすい言葉を選ぶようにしましょう。

練習あるのみ 

一通りストーリーを考え、シナリオができたらあとは練習するのみ。

家族や友人などの第三者に聴いてもらってどう感じたかをフィードバックしてもらうようにしましょう。

練習を重ねたぶんだけ、ストーリーテリングのスキルは磨かれます。

4.おすすめの本

ストーリーテリングについておわかりいただけたでしょうか?

「もっと詳しくなりたい」という気持ちになった方もいらっしゃるかもしれませんね。

そこでさらなる理解促進のためにぜひ読んでいただきたい書籍をご紹介します。

こちらをご覧になり、ストーリーテリングについての理解を深めてください。

プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える|著作・アネット・シモンズ

ストーリーテリングの第一人者であるアネット・シモンズ の一冊です。

ストーリーテリングによって、人の心を動かした事例がいくつも紹介されています。

しかし海外の事例ということもあり、自己主張の強さが日本人向けではない可能性も。

自分だったらどうするか?を想像しながら読むといいかもしれませんね。

ストーリーで体験を語れば人の心を動かせる|著作・鈴木裕子

プロの講師である著者が、具体的に行なっている準備方法やトレーニング方法などを紹介しています。

著者が日本人であること、また失敗談なども記載されていることから、ストーリーテリングについて理解を深めやすいのではないでしょうか。

人前で話すことになったら、目を通しておきたい書籍です。

あの演説はなぜ人を動かしたのか |著作・川上徹也

小泉純一郎、バラク・オバマ、キング牧師など歴史的評価の高い演説を行なってきた人たちにフォーカスする一冊。演説で人間の感情のツボを抑えるために知っておきたいポイントが紹介されています。

名演説の書き起こしがまるまる読めるというだけでも一読の価値あり。

「物語」のつくり方入門 7つのレッスン |著作・円山夢久 

その名の通り、物語のつくり方が学べる一冊です。

作家と呼ばれる人たちがどのようにストーリーを考案しているのかがわかる内容になっています。

「そもそも物語って何?」「自分にも考えられるの?」という方でも、こちらをご覧になれば、「自分も物語を考えたい」と思えるはずですよ。

思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書 |著作・佐々木繁範

いくらストーリーの考案がうまくできたとしても、きちんとスピーチできなければ意味がありませんよね。

スピーチのテクニックを学びたいという方におすすめなのが、こちらの一冊。

文章も読みやすく、就職活動・転職活動で面接を控えているという方にとっても参考になるはずです。

5.まとめ

以上がストーリーテリングについての解説です。

ストーリーテリングについて、少しでもご理解いただけたなら幸いです。

当然ですが、本を読んでいるだけではストーリーテリングのテクニックは上達しません。

概要を掴んだと思ったら、あとは練習と実践を繰り返すのみです。

一朝一夕で身につくものではありませんが、それまでのプレゼンテーションと比べ、少しずつ反応が変わってくるでしょう。

聴衆の反応が心地よくなってきたら、きっとあなたのプレゼンテーション力は見違えるように向上しているはずです。

ストーリーテリングの活用が、あなたのビジネススキルの向上につながることを心から願っています。

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