「イノベーター」は直訳すると「革新者」ですが、現在多くの場合が

世の中を変えるようなプロダクトやサービスを生み出す人

のことを指すことが多いようです。

代表的なイノベーターとしてよく名前が挙がるのは、アップル創始者のスティーブ・ジョブズ氏です。

彼は新しい技術の発見をしたわけでも、何かを発明したわけでもありませんが、マッキントッシュをはじめiPod、iTunes、iPhone、iPad、iCloudなど世界的なヒット商品を生み出しブルーオーシャン市場を自ら創造し続けたイノベーターです。

そうした希代の人物のイメージが強いからこそ、多くの人が“イノベーターとは一握りの天才のこと”だと考えているのではないでしょうか。

しかし、イノベーターは決して先天的な才能によるものではありません

イノベーションは天才によるひらめきではない

ピーター・ドラッガー(世界で最も有名な経営学者)

凝り固まった考え方や視点さえ変えれば、誰もがイノベーターになれる可能性があります。

今回はイノベーターになりたいと考えている人に、イノベーターになるための方法やイノベーターの必要性、さらには今求められているイノベーターとはどういった存在なのかをお話していきます。

目次




1.国内外で活躍する日本人イノベーターと事例

イノベーターになるための方法を実際に紹介する前に、国内外でイノベーションを起こして活躍している日本人を3名紹介していきます。

彼らも最初は決して天才と言われるような人物ではありませんでした。むしろ実績を残すまでは「落ちこぼれ」と言われるような存在だった人さえいます。

そんな彼らの共通点とは何でしょうか? 事例を見ることで探っていきましょう。

1-1.20代で貧困地域に教育革命を起こした税所篤快(さいしょあつよし)氏

e-Educationプロジェクトとは

1989年生まれの税所さんが早稲田大学在学中に立ち上げたのが「e-Educationプロジェクト」です。

教育が満足に受けられない新興国の貧困地域で、高校生を対象にした映像授業を行うというものです。

彼が最初に仕掛けたのは、バングラディシュの最果てにあるハムチャー村です。

継続的にビデオ学習を実践したところ「バングラディシュの東大」と言われているダッカ大学への合格者を輩出することに成功しました。

今ではバングラディシュだけでなく、パレスチナなどのさまざまな貧困地域に「e-Education」を展開させているようです。

e-Educationプロジェクトを立ち上げたきっかけ

高校生の頃、100点満点の数学テストで2点をとったことで「これはさすがにヤバイ」と一念発起し、大学受験のための予備校に通い始めました。

その予備校はいわゆるフェイストゥーフェイスの授業ではなく、有名講師がビデオで講義を行うスタイルです。とにかくその授業が面白く夢中で勉強し、見事早稲田大学への入学を果たしたのです。

勉強の面白さに気付いた彼は、当初国内で教育事業をやりたいと考えていましたが、そんな時にバングラディシュに関する本と運命的な出会いをします。

その本の面白さに感動し、一気にバングラディシュに興味を持った彼は友人とバングラディシュに渡り、教師不足という現実を知ることになりました。

国全体で4万人も教師が不足している上に

  • 英語の先生なのに英語が話せない
  • 数学の先生なのに数学のことをよく理解していない

など教育の質という面でも課題があることを知ったのです。

さらにはバングラディシュの一流大学合格者の9割が予備校出身者であるということ、その費用が国内の平均年収よりも高いという驚きの事実を目の当たりにした税所さんでした。

高校教育と予備校教育のクオリティに大きな差があるため、予備校に行かないと大学には行けないなのに、お金がないと予備校にも行けないつまり、バングラディシュの中間層以下の子供たちはいくら大学に行きたいという熱意があっても大学に行けるだけの教育を受けられないということです。じゃあ、自分がこの課題を解決しよう。

そこで自身の予備校での経験が頭をよぎったのです。

e-ラーニングを導入すれば、教師不足が解消できるのはもちろん、大手予備校と同等レベルのクオリティの授業を安く届けられるのではないか?

そう確信し彼はすぐに実行に移したのです。

もちろんそこから大学合格者を輩出するまでに様々な苦労がありましたが、彼の行動が貧困地域に教育革命をもたらしたことは疑いの余地がありません。

海外の地でイノベーションを起こした日本人の1人といっていいでしょう。

1-2.実現不可能といわれていた白色有機ELを開発した城戸淳二氏

今やデジタルカメラや携帯電話に欠かせないのが有機ELです。

有機ELを使ったディスプレイの特徴は、液晶と違ってバックライトが不要であるため、数ミリという薄型化が可能な点です。折り曲げも可能で、低電力かつ視野角も広いことから、夢のディスプレイと言われています。

たとえば、数年前にソニーが発売した有機ELテレビは、最も薄い部分が3mmという話題性もあり先行予約で品切れになるほど人気となりました。

しかしたった15年前まで、有機ELの実現は不可能であると言われていたのをご存知でしょうか?

その不可能を可能にしたのが城戸淳二氏です。

城戸淳二氏の 経緯 – 有機ELとの出会い

白色有機ELを開発し、今や世界的な有機ELの権威と言われています。

そんな彼も学生時代は決して優秀といえるような人物ではありませんでした。特に目的もなく勉強しなくても合格できるような大学に入学しました。

ある時、このままではいけないと勉強をし直して早稲田大学に入学したものの、最初の3年間は麻雀やスキー、バイトに明け暮れたといいます。

転機が訪れたのは、大学4年。研究室の教授との出会いでした。

希土類を研究したのも、アメリカに留学したのも、その教授の助言があったからこそ単身アメリカにわたり、高分子材料の研究などを経て、アメリカ最後の年に有機ELと出会います。

これを電気で光らせたら、世界が変わるかもしれない

研究室に置いてあった蛍光性を持ったプラスチック板を見て、ふとそう思ったのだそうです。

もしこれが実現したら、薄いディスプレイになるし、何にでも応用ができるぞと研究を始めました。

有機ELは常識にとらわれなかったからこそ実現ができた。

アメリカから帰国して赴任した先は山形大学です。設備も研究費も決して十分とはいえない中で、何年も研究を重ねます。

当時、青や赤、緑を単一で光らせるのがやっとの時代で、白色は絶対に出ないというのが常識でした。

そんな常識にとらわれず、とにかく作ってみようと実験を続けた城戸氏。1993年、世界初の白色発光有機EL素子の開発に成功したのです。

「不可能」といわれていたことに挑戦し、全く新しいものを作り上げた城戸氏は、まさにイノベーターだといえるでしょう。

1-3.目指すは介護からの卒業! 超高齢化社会の課題に取り組む橋本大吾氏

橋本氏が事業を始めようとしたきっかけ

超高齢化社会の日本において、介護の在り方を変えようと石巻市で奮闘している1人の男性がいます。

  • ごはんを食べるのを助ける
  • 起き上がるのをサポートする

といったいわゆる「対症療法」ではなく、介護老人を社会復帰させるというイノベーションに取り組んでいる理学療法士、橋本大吾氏です。

茨城県出身の橋本氏は、東日本大震災後にボランティアとして石巻市を訪れました。その時に目の当たりにしたのが、狭い避難所生活で体を動かす機会が少なくなったことから、要介護認定者が急増したという現実です。

「このままではいけない」と考えた橋本氏は石巻の中でも医療・介護の過疎地である河北地域で事業(一般社団法人りぷらす)を立ち上げたのです。

橋本氏が立ち上げた事業の特徴|介護からの卒業を目指す

床から立ち上がったり、料理を作ったりといった日常生活に直結するトレーニングをデイサービスで行いながら、身体機能と生活機能の回復改善を目指したリハビリプログラムを作り上げました。

さらにデイサービスから卒業した後の受け皿として、リハビリフィットネス事業もスタートしました。要介護認定は受けていないが健康に不安のある人などの体力回復に一役買っています。

その他にも、地域交流の促進と足腰を強くすることを目的とした芋掘りイベントや、医療・介護専門職が不足している過疎地で地域住民の自助力を高めるための専門知識勉強会などを開催してきました。

こうした多角的な事業展開によって、介護からの卒業のみならず、地域社会の活性化を実現している橋本氏は、間違いなく現代のイノベーターといえるのではないでしょうか。

2.イノベーターになるには

イノベーターと言われる人には共通点があります。しかし、前述したとおり、イノベーションは天才だから起こせるというわけではありません。

ここでは具体的にイノベーターの特徴やイノベーターとして活躍する方法などをご紹介していきます。

2-1.イノベーターとして活躍する人の共通点

今回は、野村総合研究所が行ったイノベーターに関する調査を参考にしたいと思います。日本企業のイノベーション事例から、有数のイノベーターを選出し、その共通点について調査したものです。

調査した結果、イノベーターに共通しているのは「価値発見力を持っていること」だということがわかりました。

そしてその価値発見力は細かく7つのスキルに分類することが可能です。

1、観察する力

物事を観察することでアイデアや気付きを得る力。

普通の人が見逃しがちな物事や出来事に着目して「これは何でだろう?」と疑問を持つスキルといえます。

2、リスクテイク精神

失敗の可能性があっても成功のためなら実行する力。

数々の発明を残して人々の生活を変えたイノベーターであるトーマス・エジソンが「失敗は成功の母」という名言を残しているように、失敗をおそれないのはもちろん失敗から学ぶ姿勢が大切ということでしょう。

また多くのイノベーターが多くの困難を乗り越えた経験から「不可能はない」と信じていると言います。

3、関連づける力

自分の専門・得意分野以外の解決策やアイデアを組み合わせて、問題の解決法を見つける力のこと。

スティーブ・ジョブズも既存のものを組み合わせることで成功した1人でしょう。

たとえば、マッキントッシュのマウスでクリックするという技術は、実はアップル社ではなくゼロックスが開発したものです。

ゼロックス社が「使えない」としたモデルをジョブズはタダ同然でもらいうけたのだと言います。

4、おかしいと思う力

社会の組織やルール・仕組み、既にある事実に違和感を覚え、問題に気付き、改善するための行動をとる力のこと。

観察する力と少し似ていますが、普通の人が「決まっていることだから」「仕方ない」と流しているようなことでも疑問を持ってみるといいでしょう。

何にでも「どうして?」と考えることが大切です。

5、人とつながる力

いろいろな部門・産業・地域の人から情報やアイデアをもらおうとする力のことです。

イノベーションを起こすには、人からの協力が不可欠。あなたの考えに賛同してくれる人を見つけなければ、イノベーションは始まりません。

だからこそ、積極的に人に会い、つながる努力が必要です。

6、試す力

考えるだけでなく、まず形にしたり、試したりする力のことです。

新しいモノは試さないと価値がわかりません。Wiiのコントローラーを開発する際には数百種類の試作品を作りました。

玉城氏(任天堂Wiiの開発者)

 

試すことによって失敗もするでしょうが、それが成功へのヒントになるのです。

7、捨てる力

物事の本質を際立たせるために枝葉末節の事柄を捨象する力のこと。

慎重になりすぎる必要はありませんが、行動する時には「本当にこれは必要なのか?」と考え抜くことが大切です。

物事の本質を突き詰めていく努力が欠かせないのです。またイノベーションを起こすにはいくら時間があっても足りません。

だからこそ不必要なタスクはどんどん「やらない」という選択をすることが大切です。

以上の7つが、イノベーターが持つ共通のスキルです。

先天的な能力はひとつもなく、考え方や視点を変える努力から「育てられるスキル」といえるでしょう。

2-2.イノベーターとして活躍する方法

具体的にイノベーターとして活躍するための方法を4ステップでご紹介していきたいと思います。

1、疑問を持つ

自分が所属している組織や自分が提供している商品・サービスに疑問を持ちましょう。

疑問を不満と言い換えても構いません

それがどんなに良い組織、素晴らしい商品・サービスでも探してみることから始めましょう。

なぜなら、刻一刻と変化を続ける世の中において今現在良いとされていても、何年か後には価値基準が変わっている可能性が大だからです。

また、このステップで注意したいのは、疑問や不満が愚痴で終わってしまわないことです。

もちろん出発点は不満で構いません。大抵の場合

  • どうしてうちの組織はこうなんだろう?
  • うちの商品のここが使いづらい

という疑問とも不満ともとれる視点からイノベーションは始まるものです。

疑問や不満を持ったら、変革につなげようとする意識を最後まで持ち続けてください。

2、とことん試行錯誤する

「こう変えていきたい!」というアイデアを持つ 疑問や不満をどうすれば解決できるのかをとことん考えてみましょう。いろいろな人にアイデアをもらってください。

「こんなこと言ったら変だと思われるのでは…」という不安は捨てましょう。

イノベーションなのですから、常識的である必要はありません。

ここで注意したいのが、このステップではとにかく多くのアイデアを出すことに集中することです。

一見すると突飛すぎるアイデアも、創造的な何かが隠れている可能性があるのです。

たくさん出たアイデアの中から、より良い解決策を選びましょう。この時、実現可能性も考慮することが大切です。

3、味方・賛同者を見つける

どんなイノベーションも1人で成し遂げることは不可能だと言いきっていいでしょう。

特に組織におけるイノベーションでは、経営者であっても1人ではイノベーションを成功に導くことはできません。

壁にぶつかった時、あなたとは違う視点があなたのイノベーションを救います

とはいえ、心からあなたのイノベーションアイデアに賛同し、協力してくれる人を見つけるのは難しいことかもしれません。

変化を嫌う人、組織において波風を立てたくないと考える人が多いからです。

たとえば、直属の上司にさえ「そんなことしてどうする?」と言われてしまうこともあるでしょう。

それでも諦めないでください。他部署の上司でも構いません。あなたにとって最高のメンターとなる人がどこかにいるはずです。

賛同者は全体の1%いればいいと考えましょう。

なぜなら、あなたは常識では考えられないことをしようとしているのですから理解されなくて当たり前くらいの気持ちが必要です。

2、3人に反対されたり、見下されたりしたからといって引きさがってはいけません。

もし頑張って探しても賛同者が1人も見つからなかったら、そんな会社は辞めたほうがいい。そんな会社に価値はない

4、とにかく実行する

賛同者が見つかったら、とりあえず実行にうつしてみましょう。まずは「試す」という感覚で構いません。失敗してナンボです。

2-3.イノベーターとして活躍するための思考法

実在するイノベーターの事例をもとに思考法をひも解いていきたいと思います。

ここで紹介する事例と思考法は3つです。

1、理想的な状況と現状のギャップを考える

理想と現実のギャップは、イノベーション的な発想をする大きなチャンスです。

最大の賛辞は『どうして気付かなかったのだろう?』と言わせることだ

ピーター・ドラッガー

 

史上最年少で株式上場を果たした村上氏が代表を務めるリブセンスは、業界の常識を覆して 「広告掲載料ゼロ」の求人サイトを立ち上げました。

採用が成功した時にのみ費用が発生する完全成功報酬型のサイトというのが最大の特徴です。

求人企業側の「良い人材を、費用をかけずに採用したい」という理想と「求人広告を掲載すると、人材採用が成功しなくとも広告料を支払わなくてはいけない」という現状のギャップを埋めたサービスです。

その際、求人企業に「人材を採用した」という事実を隠されてしまうと利益が出ないというリスクがありましたが、それを採用された人に「祝い金」を払うというサービスにより解消。

企業がリブセンス側に採用が成功したことを申告せざるを得ない仕組みを作ったのです。 まさに求人広告業界のイノベーションといえるでしょう。

2、全く逆の視点を持とうとする

コップ半分の水を「もう半分しかない」と考えるか、「まだ半分もある」と考えるかで視点は大きく変わります。

これはもはや使い古された例ですが、同じ事柄でも捉え方を変えることでイノベーションの大きなチャンスになるのです。

マルちゃん正麺の成功事例

「マルちゃん正麺」は、インスタント麺の平均価格のほぼ倍の価格を設定です。

低価格化が当たり前の常識を覆して、生麺に近い本格的なラーメンを食べられることをウリに、大ヒット商品となりました。

このイノベーションが成功したカギは、視点の転換します。

「デフレだから、より安いモノが売れる」という一般的な視点による商品開発に疑問を感じたイノベーターが「長いデフレに飽き飽きしている人がいるはずだ! プチ贅沢できる商品がヒットするのではないか?というアイデアを出しました。

結果、あの大ヒット商品が生まれたのです。

3、想定外がイノベーションのチャンス

想定外は最大のイノベーションのチャンスだ

ピーター・ドラッガー

“マスキングテープの成功例

女性に人気のマスキングテープも想定外の用途でヒットした商品のひとつです。

もともとは塗装などの作業現場で塗料が不要な箇所についてしまわないように開発されたものでした。

それがいつしかはがしやすいという特徴が重宝されて「識別用の目印」や「付箋」として代用されるようになったのです。

さらには「装飾用に使えるのでは?」と考えたイノベーターが、かわいいデザインのマスキングテープを発売。写真や文房具をデコったり、DIYに活用したりと手づくりを趣味にする女性に大ヒットとなりました。

「これはこういうもの」と決めつけず、

  • 他にも何か使えるのでは?
  • 他の活用法は?

こういった柔軟な視点を持つことが、想定外を生み、イノベーションを起こすきっかけになるかもしれません。

3.イノベーターとは

ここではイノベーターが求められている理由や定義、さらには最近注目されている「シリアル・イノベーター」についてまで幅広くご紹介していきたいと思います。

3-1.ビジネスシーンにイノベーターが必要な理由

2010年には総務省が「日本にはイノベーションが不可欠である」という報告書を提出したのをご存知でしょうか。

今、低迷を続ける日本が国際社会で再浮上するためには、日本企業それぞれがイノベーションを起こすことが不可欠だと、国までもが危機感を持っているのです。

日本はバブル崩壊以降、経済全体の成長が鈍化しており、今後も人口減少により大きな成長は見込めないと考えられています。

そんな時代で、企業が生き残っていくための原動力となるのが「イノベーション」だと期待されているのです。

ITの急速な進化により、世界が相互的につながり、世界で起こった最新の情報がどこにいても受け取れる現在です。そして誰もが情報を世界に発信することができるようになった現在です。

国境の意味だけでなく、もはや業界の垣根の意味すらなくなってきました。

世界の変化が急速に変化している今、「良い商品・サービスを作ってさえいれば安泰」という時代は終わったのです。

現在良いとされているもの」が1年後に良いと言われているという保証はどこにもありません。

固定電話から携帯電話、スマートフォンへの進化が10年ほどで起こっているような時代です。

数年前には当たり前だった携帯メールも日常的に使う人は減り、多くの人がLINEなどの無料通話アプリを使うようになったのも最近でいえば大きな変化でしょう。

しかし、この変化を誰が予測したでしょうか? こうした加速度的な変化に対応できる企業こそが、生き残ります。

常に新しいニーズを見つけ、どんなに小さくてもいいから新しい市場を掘り起こし、「こんな商品・サービスがほしかった」と誰かを驚かせることが、継続的に会社を存続させる唯一の方法なのです。

しかし残念ながら、イノベーションを起こせる人材、つまり「イノベーター」は企業にたくさん存在していないのが現実でしょう。

だからこそ、天才ではない「普通の人間」が努力をして「イノベーター」となることが求められているのです。

3-2.イノベーターの定義

イノベーターは直訳すると「革新者」であり、シンプルに言うと「イノベーションを起こす人」ということでしょう。

そのため、まずはイノベーションの定義についてご紹介していきたいと思います。とはいえ、イノベーションの定義については、これまでさまざまな提案がなされましたが、現時点では決定的な定義はありません。

物事の『新結合』『新機軸』『新しい切り口』『新しい捉え方』『新しい活用法』(を創造する行為)のこと

イノベーション – 辞書より

一般には新しい技術の発明を指すと誤解されているが、 それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、 社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。

つまり、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す」と載っています。

「イノベーション」が意識されるようになったきっかけ

イノベーションが最初に使われたのは、1911年ヨーゼフ・シュンペーターという社会学者が使ったのが最初です。

経済活動の中で生産手段や資源、 労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること

シュンペーターはイノベーションを5つに分類しており、

  1. 新しい財貨・新しい品質の財貨の生産
  2. 新しい生産方法の導入
  3. 新しい組織の創出
  4. 新しい販路の開拓
  5. 原料あるいは製品の新しい供給源の獲得

としていますが、現在ではもっと広義で使われているといえるでしょう。

ましてやIT技術が陰も形もなかった1911年と今とでイノベーションの定義が同じであるはずがありません。

また、日本では前述したとおり「技術革新」と訳されるケースも多いですが、それも狭義での「イノベーション」といっていいでしょう。

「それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す」

という辞書の説明が現在のイノベーションと一番近い定義といえるでしょう。

モノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こす“人”が「イノベーター」である

そう定義しても問題ないのではないでしょうか。

マーケティング用語としてのイノベーター

ちなみにマーケティング用語で使う「イノベーター」は、ここで言うイノベーターとは全く別の意味で使われています。

マーケティング理論の中で「イノベーター理論」という有名な理論があるのですが、そこでのイノベーターの定義を簡単にご紹介していきましょう。

1962年に米・スタンフォード大学の社会学者であるエベレット・M・ロジャース教授が提唱した理論で、商品購入の態度を新商品購入の早い順に5つに分類した理論です。

  1. イノベーター(革新者) 冒険心に溢れ、新しいモノをすすんで採用する人。市場全体の2.5%
  2. アーリーアダプター(初期採用者) 流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人。市場全体の13.5%
  3. アーリーマジョリティ(前期追随者) 比較的慎重だが、平均よりも早く新しいモノを取り入れる。市場全体の34%
  4. レイトマジョリティ(後期追随者) 比較的懐疑的で、周囲の大多数が試している場面を見てから同じ選択をする。市場全体の34%
  5. ラガード(遅滞者) 最も保守的で、流行や世の中の動きに関心が薄い。イノベーションが伝統になるまで採用しない。市場全体の16%

この5つに分類され、最初に商品を買うイノベーターに人気が出れば、アーリーアダプターを通じて大衆に広まっていくため、イノベーターの心を掴むことが大切であるとイノベーター理論では説いています。

何せイノベーターはいわば無料のセールスマンです。

商品を周囲にクチコミで広めてくれますし、人口全体の5%にも満たないため、広告費や販促費が格段に安く済むのです。

この理論は1962年のものですが、ビッグデータの活用が叫ばれている今、イノベーターを狙ったマーケティング戦略・広告戦略が可能であるため、イノベーター理論が再注目されているといっていいでしょう。

3-3.イノベーターとイミテーターの違い

  • イノベーター:全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出す人
  • イミテーター:何らかの形で先行する商品・サービスを模倣する人

こう表現すると、まるでイミテーターが悪者のようですが、全くゼロから新しいものを作るイノベーションはそうは起こりません。

次々にイノベーションを起こしたスティーブ・ジョブズが神格化されていることからも、イノベーションの希少性がわかるのではないでしょうか。

むしろ、イノベーションを起こそうとして生まれるもののほとんどが、イミテーションだと言ってもいいかもしれません。

たとえば、他の業界で当たり前だったものを別の業界に適応させることで「業界ではこれまでになかった新しいもの」として称賛されるというのも、一見するとイノベーションですが、広義ではイミテーションといえます。

また既存商品の軽量化や小型化といった日本が得意とする分野は、確実にイミテーションに分類されるでしょう。

つまり、イミテーターはイノベーターがイノベーションを起こした後にその業界を活性化させていくために不可欠な存在です。

プアなイノベーションより優れたイミテーションを

東大卒業後に東レに入社し、同期トップで取締役にまで上りつめ、東レ経営研究所社長や大阪大学客員教授なども務めた佐々木氏

成果を最大化するために最善の方法は何かを考えた結果、誰かのアイデアなどを模倣することが答えなら、非常に効率がいいといえるでしょう。

既に成功しているやり方をトレースして、自社もしくは自分に合うようにカスタマイズするだけなのですから、ゼロから何かを生み出すより圧倒的に時短というわけです。

3-4.シリアル・イノベーターとは

冒頭でもイノベーションとは天才が起こすものと考えられてきたとお伝えしましたが、最近の研究では「むしろ組織人こそがイノベーターである」という提起がなされています。

特に最近求められているのが「シリアル・イノベーター」です。

成熟した企業の中で、1度だけでなく複数のイノベーションを連続的(シリアル)に生み出す人材のことを指します。

“世界的な大企業P&Gの1人の社員がシリアル・イノベーターの代表例”

『シリアル・イノベーター 非シリコンバレー型イノベーションの流儀(アビー・グリフィン、レイモンド・L・プライス、ブルース・A・ボジャック 著/プレジデント社』という書籍の冒頭では、世界的な大企業P&Gの1人の社員がシリアル・イノベーターの代表例として挙げられています。

彼は経営者でもなければ、大きな権限を持つ役職者でもありません。普通の社員のひとりでした。そんな彼は生理用ナプキン開発チームに配属されます。

それまで吸収力が高く漏れないことが大切だと考えられていたナプキンの常識を覆し、女性が下着のように装着できる“快適なつけ心地”を実現した商品を作ろうと奮闘したのがトム・オズボーン氏その人でした。

しかし、その画期的なアイデアは当初、同僚から反感を買い、一時は解雇寸前まで追い込まれたといいます。それでも尚、彼は諦めることなく、勝手にプロトタイプを製作し、テストを繰り返したのです。

テストの結果は圧倒的にユーザーの支持を得ていたにもかかわらず、それでも企業からの組織的な支援を受けることは叶いませんでした。

こんな目に遭いながらもオズボーン氏はまだ諦めません。

自ら社内で支援してくれる役職者を探し、海外市場担当のマネージャーと出会います。結果、やっとのことで海外での発売を許されたのです。

発売されるや否や、彼の作り上げた製品は市場で高く評価され、年間数十億ドルを稼ぐ大ヒット商品となりました。

オズボーン氏の例において連続性は語られていませんが、

イノベーションを阻もうとする人のほうが多い大企業の中で、そんな逆境をものともせず画期的なイノベーションを起こす姿勢と行動力

シリアル・イノベーターとは

“日本におけるシリアル・イノベーターの例”

日本でいえば、鍋つゆを一人前のキューブにして売り出し、大ヒットさせた人物がシリアル・イノベーターの代表例です。

鍋つゆ=液体の商品という従来の常識を覆し「重くて持ち帰りに不便」「1人分の鍋は作れない」といった課題を一気に解決しました。

当初、その画期的なアイデアこそ賛同を得たものの、技術者には「鍋つゆを小さな立体にするのはムリだ」と言われてしまいます。

それでも尚、諦めることなく、自ら工場に出向き

「キューブ型に固執しているわけではなく、消費者にとって便利な鍋つゆができればいい。もし最終的に無理だということならできなくてもいい。まだ市場にない商品だから、できなくても誰も困らない」

と伝え、研究員や工場のメンバーと一致団結しました。

3年間の研究開発の末、キューブ型の鍋つゆは生まれ、初年度は予想の2倍となる約十億円を売上、次年度はその1.5倍の売上を記録したのです。

主婦はもちろん、いわゆる「おひとり様」からも多大な支持を獲得しました。 そしてその開発者は「次はどんな仕事をしたいか?」という問いに「全くノウハウのない海外市場で、新商品をイチから生み出したい」と答えました。

自分がヒットを生み出した領域に執着することなく、新しい挑戦に心を躍らせる人種こそ、まさにシリアル・イノベーターなのです。

4.おすすめの本

『イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル』著|クレイトン・クリステンセン

イノベーションを起こす人に共通する能力とは何かを5つのスキルにまとめた書籍です。

6年の年月をかけて、スティーブ・ジョブズやアマゾンCEOのジェフ・ベゾスなどに代表される革新的な経営者25名と3500名を超える先見の明のある起業家を分析してまとめあげたものです。

イノベーションを起こす力は決して先天的ではなく後天的に鍛えられると結論づけており、より具体的な能力開発方法も紹介しています。

イノベーターとして活躍したいなら、最初に読んでおきたい本です。

『イノベーションの本質』著|野中郁次郎・勝見明

サントリー飲料の「DAKARA」や「黒川温泉」など世間を賑わしたヒット商品が生まれた現場を取材です。

普通の社員が成し遂げたイノベーションの事例から、革新の本質とそれを支えた企業風土をひも解いている書籍です。

イノベーションが起こったプロセスが物語風に書かれているため、非常に読みやすく、イノベーションとは何かを知る入門編として最適といえる1冊といえます。

『オープン・イノベーションの教科書 社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ』著|星野達也

東レ、帝人、デンソー、大阪ガスなどの国内企業を中心に成長企業が行う生き残りをかけたイノベーションの事例を紹介されています。

単なる事例紹介だけでなく、具体的な手法が書かれた実践的な内容であることが大きく評価されている名著です。

また恋愛との相似性を示すなど、読みやすさにも工夫がされています。

5.まとめ

イノベーター=天才ではないということ、さらには今どれだけ日本でイノベーターが求められているかということがおわかりいただけたのではないでしょうか。

イノベーターとしての第一歩は、あなたの身の回りに疑問・不満を持つことから始まります。

それはどんな小さな疑問・不満でも構いません。

ある学者は「イノベーターは得てして愚痴体質である」と語ったという話がありますが、それは疑問や不満を見つけることが上手いという賛辞の裏返しともいえます。

まずは「もう決まっていることだから」「仕方ない」と考えるのはやめて、身近な疑問・不満を解決したいと思うところから始めましょう。

それがあなたの起こすイノベーションのスタートだったと誰かに語る日もそう遠くない未来のことかもしれません。

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