マーケティング担当者や感度の高い営業担当者であれば、数年前から耳にしていたであろうインバウンドマーケティング。最近では、情報リテラシーの高低に関わらず、用いる機会が増えてきている印象です。
なかにはインバウンドマーケティングという単語を使っていれば、「やり手のビジネスパーソン」を演出できると思っている方も少なくないかもしれません。
しかし、「なんとなく」「雰囲気で」「かっこいいから」「はやっているから」使うのはもう卒業。本稿では、インバウンドマーケティングに関する基礎知識から実践法までを、さまざまな観点から整理してお伝えしていきます。
目次
1:インバウンドマーケティングとは
インバウンドマーケティング(Inbound Marketing)とは、文字通りマーケティング施策のひとつです。
この概念が登場するまで、商品やサービスを売りたい・広めたい企業・個人が顧客を開拓する手段は、見込み客を探しだし、説得をし、購入してもらうというフローが一般的でした。いわゆる、攻めの営業です。
対してインバウンドマーケティングとは、見込み客となり得る消費者のほうに、商品やサービスを見つけてもらい、問い合わせなりをしてもらう手法。いわゆる、待ちの営業です。
1-1:インバウンドマーケティングのはじまり
日本でインバウンドマーケティングという概念が広まるきっかけとなったのは、2011年に発刊された、ブライアン・ハリガン(HubSpot社CEO)とダーメッシュ・シャア(HubSpot社共同創業者)の著書『インバウンドマーケティング(Inbound Marketing -Get found using google,social media,and blog)』の発売ではないかと考えられます。
著者がインバウンドマーケティングを提唱したのは、2005年のこと。6年近く経過して日本に持ち込まれた、新しいマーケティングの概念です。
それまでのマーケティングといえば、広告出稿などを中心とする『顧客を見つけにいく』手法を指していました。対してインバウンドマーケティングとは、消費者自身に「見つけてもらう(Get Found)」ことを目的としたマーケティング施策。
興味のある消費者であれば、自ら検索やソーシャルメディアで発見して、調べてくれることに期待した手法です。時代の潮流を考えると、カスタマーに発見してもらうという手法は、間違いではなかったと考えられます。いうまでもありませんが、インターネットの爆発的な普及やスマートフォンの登場が、消費者の『検索する』という行為を日常のものとしたからです。
検索という言葉に触れましたが、具体的なインバウンドマーケティング施策のひとつとして、自社コンテンツをインターネット上に展開し、検索という行為によって自社サイトへ訪れてもらう方法があります。また、ソーシャルメディアでの発信・拡散を用いて、「見つけてもらう」ことで自社サイトへ誘導する方法も含みます。
近年では、自社サイトへ訪れた人を顧客化する育成プロセスまでを含んで、インバウンドマーケティングと定義するようになりました。消費者自身に「見つけてもらう(Get Found)」からはじまる一連のマーケティング活動を包括して、インバウンドマーケティングと呼んでいます。
1-2:インバウンドマーケティングが注目される理由
インバウンドマーケティングが注目される理由には、環境の変化と消費者行動の変化が挙げられます。
インターネット・スマートフォンの普及により、消費者がカンタンに「調べる」手段を手に入れたのは先述のとおり。GoogleやYahoo!といった検索エンジンを利用することで、情報を得ることが容易になりました。
また、商品やサービスを利用した後に、その感想をブログやソーシャルメディアで発信することも自然な流れかと思います。ここで発する感想とは、サービス提供側にとってはコントロールが効かない、賛否ともに自由な内容がポストされるのが特徴です。
すでに言い古されたことではありますが、誰もがメディアを持ったり、世の中に意見を発信できる状態になったということ。人々は情報を発信する機会を得たのと同時に、手に入れる情報の量も劇的に増えたという時代背景があります。
この時代背景は、マーケティングにおいては不都合を生じさせた部分があります。膨大な量のコンテンツ・情報を受け取れるようになりましたが、人間が処理できる情報の量は比例しません。
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総務省が数年前に発表した資料からも、顕著に読み取れるでしょう。世界で流通する情報の量は、年々うなぎのぼりで増えています。対して、消費できる情報の量、人々が使用する情報の量については、流通する情報の量に匹敵しません。
情報社会に移り変わったことで、人々の情報処理の仕方や消費する量が増えてきた面はあります。それでも、世の中に流れる情報量と、人間が消費できる情報量の差は、年々ひらいていくばかりです。
マーケティングの文脈で考えると、従来の広告型マーケティングでは、適切に情報を届けることが難しくなったと考えるのは、いささかも乱暴ではありません。アドテクノロジーの進化を考慮しても、闇雲に広告を出すことでは、求める層に届く可能性が低くなっています。
そこで注目されはじめたのが、インバウンドマーケティングという手法。サービス提供者が伝えたいことだけ言う従来の広告と異なり、新しい考え方や手法として期待が高まっています。
1-3:アウトバウンドマーケティングとの違い
インバウンドマーケティングについての概要が分かったところで、あらためてアウトバウンドマーケティングについても解説しておきます。
インバウンドマーケティングの解説によって、アウトバウンドマーケティング=古いマーケティング手法という認識ができあがったかもしれません。古いといっても、現在でも利用されていますし、その有効性は否定できるものではないということを覚えておいてください。
アウトバウンドマーケティングの代表例としては、テレビCMや雑誌・新聞などのメディアに掲載する手法=広告が挙げられます。その他、テレフォンマーケティングもアウトバウンドマーケティングの一種ですし、メールDMやWebサイトのバナー広告なども該当します。広義で考えれば、飛び込み営業もアウトバウンドマーケティングに属するでしょう。
消費者に見つけてもらうPull型のマーケティングを『インバウンドマーケティング』、対比して、こちらから消費者を捕まえるPush型のマーケティングが『アウトバウンドマーケティング』という認識をしておけば大きく間違えることはありません。
インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングの違いは、待ちの営業か攻めの営業か、消費者が自ら訪れるのか捕まえにいくのか、が大きな違いとなります。
1-4:アウトバウンドマーケティングは衰退したのか
インバウンドマーケティングが盛んになった理由と重複する部分がありますが、インバウンドマーケティングの流行=アウトバウンドマーケティングの減少について解説します。
インターネット環境やスマートフォンの登場、検索という行動の日常化が大きな理由であることは先述のとおり。時代やテクノロジーの変化が主な理由です。もう少し平たく述べると、『消費者が賢くなった』と考えることができます。
例えば、あなたの自宅に訪問販売の営業がやってくることを想像してみましょう。商材は、新聞の勧誘でもマンションでもお墓でもかまいません。ちょうどタイミング良く、お墓を買おうと思っていた……のであれば、なんら問題はありません。もしくはマンションの購入を検討していた場合も。
ところが検討のタイミングではなかった場合、そのようなセールスにうんざりするでしょう。なかには優れた営業担当で、想定外の買い物をすることもあるかもしれませんが、多くの場合は不要な商品やサービスを紹介されても、押し売りをされているような気持ちになるもの。
メルマガやDM、チラシでも同じです。重要なメールに紛れ込んでいる広告メールやポストに投げ込まれているチラシ、もしくはWebサイトを閲覧中に表示されるバナー広告に不快感を覚えたことはないでしょうか。
YouTubeで好きなアーティストのライブ動画を見ていたら、画面に表示される無関係の広告。すぐに消してしまいたいのに、種類によっては数秒間(場合によってはもっと長時間)は強制的に閲覧させられます。
このように自分のタイミングではないときに、無理やり勧められることを煩わしく感じるようになりました。なぜなら自分の欲しい情報は、必要なときにインターネットで手に入れることができるから。
現代では購買の意思決定の前に、検索という行為が欠かせなくなっています。
購買の前に自ら情報を取得するのが自然になったいま、求めていない情報を強制的に送ってくるアウトバウンド型のマーケティングは少しずつ、その役割を奪われはじめたと言えるでしょう。
2:インバウンドマーケティングのメリット
アウトバウンドマーケティングが勢いを失い、台頭してきたのがインバウンドマーケティング。
各事業者がこぞって取り入れるからには、相応のメリットがあると考えられます。ここでは、インバウンドマーケティングで享受できる、企業経営・サービス提供へのメリットについて考えてみました。
2-1:顧客に嫌われない
先述した訪問営業やチラシ、DM、バナーなど、自分が選んでいない情報を押し付けられることに、現代人は辟易としています。望んでいない情報、特に押し売りに近いサービス紹介を一方的に見せられることは、送り主に対して良いイメージを持つことが難しいといえるでしょう。
先に解説したとおり、現代人が触れる情報の量は爆発的に増えています。対して、個人が処理しきれる情報量は一定。自分にとって必要な情報を漏らさずに受け取るためにも、不要な情報提供は嫌われます。
対して企業のマーケティング担当者は、見込み顧客の獲得に必死。手を変え品を変え、見込みの有無に関わらず、サービスや商品の紹介を行なっています。
本来のマーケティングを考えれば、顧客と良好な関係を築き、企業やサービスを愛してくれるファンづくりが目的でした。
ところが従来のアウトバウンドマーケティングでは、努力すればするほどに嫌われてしまうという真逆の関係構築を促進します。
対してインバウンドマーケティングは、情報を欲しい人が自ら探しにくる仕組み。Webサイトに適切な情報を配置しておくことで、見込み顧客が自分から探しだして閲覧してくれます。
求めていない情報の押し売りによって、ブランドやサービスに悪い印象をいだかれる可能性が低い。これが、インバウンドマーケティングのメリットのひとつです。
2-2:広告宣伝費を削減できる
目に見えて、しかも短期間で実感できるメリットのひとつにコスト削減が挙げられます。
従来の広告をはじめとする告知方法は、マスメディアに対して高額な費用を支払っていました。
特に、テレビや新聞への出稿であれば、数千万円単位のコストがかかっていたでしょう。このコストを、最大で0円にすることを可能としたのが、インバウンドマーケティングです。
先に挙げたマスメディアはもちろんですが、インターネット上のリスティングやバナー、eメールなどの広告費削減にも期待ができるでしょう。ただし、インバウンドマーケティングを実行しながらも、親和性の高いインターネット広告は併用するケースがあります。
インターネット広告を併用したとしても、インバウンドマーケティングを取り入れる以前と比較したら、大幅にコスト削減が可能です。それどころか、併用することでインバウンドマーケティング施策の効果を高めることができ、費用対効果の向上が見込めます。
2-3:ターゲットを絞り込める
インバウンドマーケティングによる大きな変化として、広告の無駄がなくなったことも挙げられるでしょう。
従来の広告、特にテレビや新聞、雑誌などマスメディアでは、できる限りたくさんの人々に見てもらうことが重要でした。媒体選びの際に、視聴率や発行部数などを基準としていたことからも明らかです。
多くの人に語りかけ、反応してくれた人だけがサービスを利用する。まさに“広告”であったわけです。
対してインバウンドマーケティングは、検索エンジンからの導線を強く意識することで、あらかじめサービスに関心の高い人に情報を届けることが可能となりました。
インバウンドマーケティング施策で展開するコンテンツの中に、見込み顧客が検索しうるキーワードを盛り込むことで、興味をもつ人にピンポイントでメッセージを届けられるようになりました。
情報を届ける対象を絞り込んで送る。従来型の広告と比較し、無駄のない出稿が可能になりました。しかも、興味・関心の高さから、実際の購入といったアクションにつながりやすいこともメリットです。
2-4:クチコミの利用で、より拡散できる
インバウンドマーケティングを語る際に、忘れてはいけないのがソーシャルメディアの登場と流行です。
広告費を削減しながら、より興味・関心の高い優良なリード(見込み客)に対して、必要とされる情報を届けられるようになり、かつファンをつくりやすいマーケティングが可能となりました。
ファンに対して優れたコンテンツを提供すれば、彼らはソーシャルメディアを用いて、友人に対して「情報のシェア」という行動をとってくれる可能性まで高まりました。
ソーシャルメディアによる情報の拡散は、これまでのどんな伝播手法より力強いことが分かっています。
六次の隔たりという言葉を聞いたことはありませんか? 友人の友人の友人……と6度たどることで、世界中の人々とつながると言われている、スモールワールド現象のひとつです。ソーシャルメディアはこの仮説を基に構築されたと言われ、情報伝達のためのひとつのツールにまで成り上がりました。
ソーシャルメディアをはじめとするクチコミの利点は、情報の広がりだけにとどまらず、その信頼性の担保にまで影響を及ぼします。広告と比べ、知人からの情報提供という信頼の価値が付加され、購買の意思決定に大きく寄与すると考えられます。
このクチコミを上手に活用することも、インバウンドマーケティング施策のひとつであり、従来の広告では成し得なかったメリットとなっています。
インバウンドマーケティングにおいて、ソーシャルメディアやクチコミとの連携はとても重要です。この点については、後に詳しくご紹介します。
3:インバウンドマーケティングのデメリット
インバウンドマーケティングのメリットについて、代表的な4点をご紹介しました。メリットばかりであれば、今すぐにアウトバウンドマーケティングを中止して、インバウンドマーケティングに切り替えたいと思うところ。
逆に、良い所ばかり説明されると、なにか裏があるのではないかと勘ぐってしまうのが人間というものです。
インバウンドマーケティングを正しく理解いただくためにも、見方によってはマイナスの要因、知らずにはじめると「こんなはずじゃなかった」を誘発しそうな要因=デメリットと捉えられがちなポイントをご紹介します。
3-1:成果がでるまでに時間を要する
広告と異なり、インバウンドマーケティングではコンテンツを作成し、情報を求めている人から見つけてもらう必要があります。情報への流入元として、Googleを筆頭とする検索エンジンがその大部分を占めるでしょう。
いわゆるSEO(検索エンジンオプティマゼーション=最適化)と呼ばれる工夫が必要であり、知識とスキルが求められます。SEOが上手くいかなければ、せっかくつくったコンテンツを見てもらう可能性が下がってしまいます。
どうしてもコンテンツへの流入が見込めない場合、インターネット広告の利用を検討する必要があります。クリック課金型の広告で、どのくらいのターゲットに届くか、また届いたコンテンツは適切なのかを確認する作業です。
またコンテンツを作成するにあたり、きちんと届けたい相手を見極める行為が欠かせません。いわゆるペルソナと呼ばれる、ターゲット像を細かく分析し定義する作業が必要です。ペルソナを立てることで優れたコンテンツの定義を決め、中身を作成しなければなりません。ここにも、マーケティングやペルソナ設定の知見が求められます。
つまり、インバウンドマーケティング施策のためにコンテンツを作成する場合、つくるまでに要する時間、見つけてもらうために工夫をする時間などが必要となります。
3-2:情報発信の継続にリソースを要する
インバウンドマーケティングにおいて、最も重要なのはコンテンツです。優れたコンテンツを作成することが、成功のキーファクターである以上、手を抜くことができません。またコンテンツが消費されやすい時代になっていることも見逃せない要件です。
優れたコンテンツであれば、必要に応じて何度でも訪れてもらえる可能性がありますが、多くの場合は、一度目にしたコンテンツは、新鮮さが失われます。これは従来の広告にもいえることですが、常に新しい情報・時代にマッチした情報を提供しつづける必要があります。
では、定期的にコンテンツを発信することは容易でしょうか。先に述べたとおり、コンテンツを作成するのには時間が必要です。持続的に優れたコンテンツを作成し、発信しつづけるというハードルは想像よりも高いかもしれません。
解決方法のひとつとして多くの企業が取り入れているのは、コンテンツ制作の外注化です。
社内にコンテンツ作成の専任者を置くケースもありますが、それでも限られた質・量での情報発信に留まりがち。
そこで外部のコンテンツ制作者を味方につけ、定期的な制作・更新体制を構築することが近道と考えられています。
3-3:デメリットよりも、メリットの大きさにに期待
デメリットを大きく2点、コンテンツの制作期間と継続性についてお伝えしました。従来のアウトバウンドマーケティングであれば、お金を使うことで解決できた点も、インバウンドマーケティングにおいては地道な作業が必要となります。
では、アウトバウンドマーケティングからインバウンドマーケティングへの乗り換えは無駄なのでしょうか。100点満点の答えはありませんが、多くのケースでは導入時のコストと手間を乗り越えれば、メリットのほうが大きいと考えられます。
インバウンドマーケティングによって獲得するリード情報は、その確度の高さがアウトバウンドマーケティングと比較になりません。
初期段階の苦労を乗り越え成長曲線に達すれば、費用対効果がとても高いマーケティング施策であるといえるでしょう。
4.インバウンドマーケティングとソーシャルメディア
インバウンドマーケティングを成功させるポイントとして、2つの施策に触れておきたいと思います。結論からお伝えすると、SEOとSMO(ソーシャルメディアオプティマゼーション=最適化)の対策を行なうことがポイントです。
Googleをはじめとした検索エンジンからの流入が重要であるため、SEOの必要性は語るまでもありません。
同時に、SMO対策を行なうことが、インバウンドマーケティングを成功へ導くキーポイントとなります。
インバウンドマーケティングのメリットとして、クチコミやソーシャルメディアを活用した拡散について先に述べました。
インバウンドマーケティングの効果をより高め、成功させるキーファクターです。
さらに近年では、ソーシャルメディアやブログなどの投稿内容が、NAVER まとめに代表される『まとめサイト』に転載されるようになりました。
これはソーシャルメディアで投稿された内容が、フロー型のコンテンツとして短期間で消費されていた従来の使われ方から変化が起きているということ。
まとめサイトというメディアに転載されることで、ソーシャルメディアでの投稿内容がストック型のコンテンツへと焼き直されます。
情報発信を行なう側としては、ソーシャルメディアでの投稿や消費者によるクチコミが、新たな顧客獲得の導線になっていることを理解する必要があります。
裏返すと、自社にとって好ましくない情報(事実であるないに関わらず)までもが、顧客になり得る人々へ届いてしまうということ。
ソーシャルメディアやクチコミが、通常の広告より信頼度が高いことはお伝えしたとおりです。
その分、信頼している友人・知人が発信したネガティブな情報で、ブランドの認知やイメージが形成される可能性があるということです。
このようなリスクを回避するためにも、SMO施策を充分に検討することが大切になります。
リスク回避などのネガティブな要因だけではなく、ソーシャルメディアが新たなリード獲得の装置として機能しているわけですから、効果性を考えたSMO施策の立案と実行がインバウンドマーケティングのポイントとなります。
5.インバウンドマーケティングを成功させる4ステップ
インバウンドマーケティングのメリットと必要性が理解できたところで、具体的な流れをご紹介します。
インバウンドマーケティングが成功したといえるのは、これから解説する4つのステップが完了したとき。ポイントとなるのは、顧客になった=商品やサービスを購入してもらうことが最後ではない、という事実です。
5-1:ステップ1 ユーザーを惹きつけること
インバウンドマーケティングの肝となるのは、顧客・ユーザーのほうから情報を探しだしてもらうこと。従来の一方的に広告を送り届ける手法とは異なります。では、どのような情報を発信しておけば、ユーザーに探しだしてもらえるのか。
まずは、自社が展開するWeb上のコンテンツに訪問してもらえる、ユーザーを惹きつけるコンテンツを用意することからはじまります。強く意識したいのが、ユーザーを主体としたコミュニケーションを図ること。どのような検索をしているのか、どのような回答を求めているのか。
またソーシャルメディアでの拡散も意識し、ユーザーとその先にいる未来の顧客候補者たちが興味をもつコンテンツを届けていくことが重要です。
5-2:ステップ2 リードへ育成する
見事にユーザーを惹きつけることに成功したら、次のステップはユーザーのプロファイルを収集すること。プロファイルとは、「輪郭」「横顔」「分析結果」「略歴」などの意味を持つ英単語ですが、ここでは属性などの情報群を指します。
多くの場合、リード育成に必要となる情報として、Eメールアドレスの取得を行なっているようです。Eメールアドレスを取得することで、ユーザーに対してこちらから情報提供が行なえるのは言うまでもありません。これまでの広告配信と異なるのは、アドレスの持ち主が自社の情報・サービスに興味を抱いているというアドバンテージ。
その後、ユーザーのニーズを把握しながら、適切な情報を最適な手段で提供していきます。インバウンドマーケティングで用いられている手法としては、ホワイトペーパーやEブックの提供、動画の配信やオンラインセミナーへの招待です。
ユーザーのステータスに合わせた情報を提供することで、リード=見込み顧客へと育成をしていきます。
出典:見込み客を育成すること=リードナーチャリング
5-3:ステップ3 顧客化する
次のステップは、『見込み顧客』となった『ユーザー』に、『顧客』すなわち商品やサービスの購入者になってもらう段階です。
リードを育成しながら、購入という意思決定まで導きます。ここで重要なのは、どの段階で購入というアクションを促すか。
リードの育成が不十分な段階で販売を行なうと、時期尚早ということで顧客が離れていく可能性があります。逆に育成が充分なのに、いつまでも情報提供だけを行なっていたら、情報過多による顧客離れが起きるでしょう。
最適な育成状況を見極めるために、育成プロセスの可視化やスコア化を行なうことが望ましいです。
スコア化とは、育成段階ごとにポイントを決め、何ポイントまで進んだら購入を促すというサインです。
例えば、Webページに訪れたら1点、メールマガジンを受け取ったら2点、新しいコンテンツに訪れたら3点、資料請求をしたら5点、セミナーに参加したら10点……などを割り振り、30点になったところで購入を促すといった方法になります。
リードの段階では、まだ購入意思は決まっていません。充分な情報提供のもと、はじめて購入というアクションに結びつくことを忘れずに、ユーザー本意のコミュニケーションを行なう必要があります。
5-4:ステップ4 顧客を満足させる
インバウンドマーケティングの最大のポイントともいえる、顧客の満足を高める段階です。
マーケティング担当者や営業担当者であれば、ユーザーをリード化し、顧客化した時点で満足してしまうもの。
ところが、ここまで解説してきたように、ソーシャルメディアの台頭やクチコミが影響力を高めた現代において、購入後の顧客をフォローアップすることこそが、本当の意味でのマーケティングといえます。
つまり、販売しても終わりではないということ。
顧客の満足度を高めることで、新しいユーザーやリードを獲得するチャンスが生まれます。
自社の商品やサービスを広めてくれるインフルエンサーとなってもらう、サービスやブランドのファンになってもらうことが重要なのです。
また、購入済の顧客に対して、アップセルやクロスセル(購買単価を上げること、関連商品を購入してもらうこと)を仕掛けるチャンスでもあります。
従来のアウトバウンドマーケティングと異なり、インバウンドマーケティングでは双方向、かつ持続的な情報共有が可能となりました。
つまり、一度ファンになってくれた顧客とは、継続的につながりつづけることができます。
購入者だけに対するコンテンツ提供やセミナー開催をしても良いでしょう。定期的にメールマガジンやWebサイトの更新情報を送ることも効果が見込めます。
ここでも重要なのは、顧客が求めている情報に対して、優れたコンテンツで応えること。
インバウンドマーケティングの成功には、顧客とのコミュニケーションと求められるコンテンツの提供が欠かせません。
逆に考えれば、顧客とコミュニケーションをとることが叶い、手間ひまかけて作成したコンテンツを届けつづけられる優れたマーケティング手法といえるでしょう。
6.おすすめの本
インバウンドマーケティングの基本が理解できたところで、さらに深い知識を得られる書籍をご紹介します。
マーケティングのための基礎知識、コンテンツマーケティングの実践方法、マーケティング・オートメーションの導入など、インバウンドマーケティングを行なう上で参考になる情報が満載です。
USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略/アーロン・シャピロ (著), 萩原 雅之 (監修), 梶原 健司 (翻訳), 伊藤 富雄 (翻訳)
本稿で解説しているインバウンドマーケティングよりも前段に位置する、顧客との向き合い方を知れる良書です。
アウトバウンドマーケティングはもちろん、従来の考え方における「顧客」という範囲を大きく広げて考えるきっかけになります。
インバウンドマーケティングによって「ユーザー」を「リード化」して「顧客」に変えて「シェア」してもらう、という流れを考えると、本書で紹介されているフレームワークを理解することが重要でしょう。
マーケティング部門だけではなく、経営方針からセールス、サポートまでの「顧客」の概念を共通認識に変えることが、インバウンドマーケティング成功の第一歩です。
インバウンド・マーケティング/ブライアン・ハリガン (著), ダーメッシュ・シャア (著), 川北英貴 (監修), 前田健二 (翻訳)
ここまで解説してきたインバウンドマーケティングについて、基礎から実践までが学べる一冊です。
Webにおけるインバウンドマーケティングに関する情報が網羅されています。
ソーシャルメデイアの使い方から、自社HPの設計やSEOへの取り組み、PPC広告、競合のベンチマーク方法にいたるまで、丁寧な解説と具体的なto doに落とし込まれています。
この書籍でインバウンドマーケティングのすべてを理解するには至りませんが、入門編、実行の手引としては充分に機能します。
まずはこちらで紹介されていることを実践し、経験を重ねることで生まれた疑問を、他の書籍や専門家のアドバイスで解決していくのが良いでしょう。
商品を売るな コンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みをつくる/宗像 淳 (著)
インバウンドマーケティング施策のひとつとして、コンテンツマーケティングを検討する企業が増えています。
優れたコンテンツを用意して、見込み顧客を獲得していくインバウンドマーケティングを実践するためには、方法論を知っておきたいコンテンツマーケティング。
そのやり方、有用性、国内外の成功事例を紹介してくれるのが本書です。コンテンツマーケティングを実践するためのステップとして、ゴール設定、ペルソナ設定、コンテンツ設計、エディトリアルカレンダーの作成、KPIの測定まで、詳しく解説されています。
全ページがカラーで、イラストを多用するなど、読みやすさにも考慮されており、短時間で一読することも可能。
従来のアウトバウンドマーケティングから、インバウンドマーケティングへと頭の切り替えができていない人にとっては、最初に読む価値がある本でもあります。
BtoBのためのマーケティングオートメーション 正しい選び方・使い方 日本企業のマーケティングと営業を考える/庭山 一郎 (著)
マーケティングに関わる操作を自動化するMA(Marketing Automation)の解説本であり、BtoBに特化した国内初の書籍です。本稿では触れてこなかった、マーケティングオートメーションについて理解を深めることができるでしょう。
また多くの書籍ではBtoCのデジタル・マーケティングを中心に解説されていますが、こちらはBtoBに特化していることが特徴です。
さまざまなMAソフトの紹介がなされていますが、そもそもなぜMAを導入するのかが理解できます。
高額商品を販売するために営業部隊が不可欠、というビジネスを手掛けるマーケティング担当は必読ともいえます。
インバウンドマーケティングによってリードを獲得し、営業担当に引き継ぐデマンドジェネレーションの役割と効果が分かりやすく解説されています。
7.まとめ
注目度の高いインバウンドマーケティングについて、定義から注目される理由、メリットとデメリット、ソーシャルメディアとの関係、成功するためのステップをご紹介しました。
日本に持ち込まれてから、まだ数年しか経過していない新しい手法です。つまり、正解や必勝法が確立されていない分野であり、大きな可能性を秘めているマーケティング手法ということ。
これから勉強してマスターしても、まだまだ遅くないというメリットがあります。同時に、優れた手法が日々、生まれていますので、トレンドを確認しつづける必要もあるでしょう。
ただひとついえるのは、インバウンドマーケティングは、あなたの事業推進に大きく役立つということです。ぜひ、正しいインバウンドマーケティングを実践していってください。
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