売上を拡大するためにどのような販売戦略を取れば良いのか、頭を悩ませている企業・店舗は多いのではないでしょうか。売上拡大のための販売戦略は、大きく2つに分けることができます。1つは新規顧客の開拓、もう1つは既存顧客の深耕(リピート率を上げる)です。
新規顧客の開拓は販売戦略上とても重要ですが、成果が現れるまで非常に多くの時間が必要になってきます。まずはアポイントをとり、自社や商品の説明、取引条件の交渉など、多くのやり取りが発生しますよね。しかし、それが全て取引に結びつくかというとそうではありません。
それに比べ、既存顧客は既にそれらのフローを経て信頼関係が築かれていますから、時間的にもコスト的にも効率よく動くことができると言えます。
また、既存顧客の満足度を高めることで、「クチコミ」の効果が期待できます。評判がクチコミとなって広がれば、新規顧客を獲得する面でも効果を発揮してくれるでしょう。つまり、既存顧客の深耕を図ることが新規顧客の開拓率アップに繋がるというグッドスパイラルが生まれます。
そこで今回は、「既存顧客のリピート率の向上」にテーマを置き、販売戦略方法を考えていきたいと思います。
目次
1.リピートにつながらない原因
経営学者のピーター・ドラッカーの言葉に、「会社の売上の8割はリピーターから生まれる」というものがあります。つまり、リピーターが増えれば会社の売上も増えると言っても過言ではないということ。しかし、いざリピーターを増やそうとしてもなかなか上手くいかないケースも珍しくありません。
では、リピート率が向上しない理由はどこにあるのでしょうか。代表的な原因をご紹介しますので、まずは現状の課題を分析することから始めましょう。
原因1:忘れられてしまう
例えば、とある飲食店に行ったとします。料理も美味しいし、店員の接客態度も申し分なく、「良いお店を見つけた」と思ったことが誰しも一度はあるのではないでしょうか。しかし、何かきっかけがない限り、2回以上訪れる店は多くはないはず。よくよく考えてみると、圧倒的に1回しか行ったことがない店の方が多いと思います。
特に不満があるわけでなくても、再び利用するきっかけがないと、消費者は「リピートする」という行動を取りづらいもの。結果的に存在を忘れられてしまいます。
原因2:リピートする理由がない
人間の行動には、必ず何かしらの理由があります。例えば、食事をする理由は「お腹が空いたから」「ストレス発散をしたいから」「誰かとコミュニケーションを取るため」などが挙げられると思います。
リピートするという行動も全く同じ。顧客にとってリピートする理由がないから、リピート率向上につながらないということです。
原因3:値引きを売りにしている
新規顧客を開拓する際、何を売りにしているのかを少し考えてみましょう。例えば「値引き、割引」を売りにしてはいませんか。
それ自体は悪いことではありません。しかし、「値引き、割引」を売りにして集まるのは、必然的に「安いから利用する顧客」です。そういう顧客の場合、常に安さを探し続けていますから、より安いサービス・商品を見つければ簡単に流出してしまいます。つまり、新規顧客を安さで集めるとその企業や店舗は“穴の空いたバケツ状態”になり、リピート率は低くなってしまいます。
原因4:従業員の対応が悪い
原因3で挙げた通り、値引きを売りにしている場合なかなかリピート率は向上しません。それは、会社・店舗のファンではないからです。逆に言えば、会社・店舗のファンになってもらえればリピートに繋がると言えるのではないでしょうか。
その重要なファクターとなるのが、接客スタッフや営業など、顧客と直接関わるポジションの従業員の対応。従業員の対応が良ければ、必然的に会社のファンを増やすことができます。実際、顧客が離れる理由第一位が「従業員の無関心」であるというデータも出ているようです。
つまり、顧客に対して無関心過ぎたり、反対に過剰にコミュニケーションを取り過ぎたり、対応方法を間違えれば顧客は離れていってしまうということ。「サービス・商品」といった物の質はもちろんですが、「○○さんがいるから行く」「○○さんから買いたい」という状態をつくることは、リピート率の向上に大きく寄与します。
2.リピートにつなげる販売戦略の秘訣
リピートにつながらない原因を把握したら、次に取るべき行動は解決策の実行です。しかし、闇雲に実行しても効果は期待できませんし、再現性がなければあまり意味がありません。ポイントは、「どの顧客に、どのタイミングで、どんな情報を提供してリピートに結びつけるか」を考えること。
というのも、一口に既存顧客と言っても「初めて商品・サービスを受けたお客様」「初回利用から間を開けずに2回目の利用があったお客様」「初回利用から2回以上の利用があったお客様」「長い間定期的に利用してくれるお客様」など、様々なタイプに分けられるためです。初回利用顧客と常連客に同じことをしても、効果は見込めないでしょう。そこで、ここではリピートに繋がる販売戦略を立てるための秘訣をご紹介していきたいと思います。
顧客をセグメンテーションする
先にも述べた通り、「一度しか利用したことがなく、サービス・商品に対する評価も曖昧な顧客」と、「何年も利用し続け、サービス・商品に対する理解も深い顧客」では、最適なコミュニケーションの取り方が異なってきます。そこで、顧客を類型化してみましょう。
セグメントする際の軸としては、下記が挙げられます。
- 地理:国、地域、地元など
- デモ・グラフィック変数:年齢、性別、家族構成、所得、職業、教育水準、世代、国籍、社会階層など
- サイコ・グラフィック変数:ライフスタイル、趣味嗜好、興味関心、価値観、購買意向など
- 購買活動:新規、見込み、リピートなど
- 購買心理:熱狂的、肯定的、無関心、否定的、敵対的など
これらを組み合わせて、顧客群を類型化していきます。
また、業界や商品特性によって変わりますから、様々な点を考慮して最適なセグメンテーション軸を決めていくことが大切です。
セグメンテーションした顧客に最適なアプローチをする
例えば、大きく「初めて商品・サービスを受けたお客様」「初回利用から間を開けずに2回目の利用があったお客様」「初回利用から2回以上の利用があったお客様」「長い間定期的に利用してくれるお客様」の4つにセグメンテーションしたとします。その場合、下記のようなアプローチが適切になることが分かります。
初めて商品・サービスを受けたお客様
初回客が2回目の利用をしない理由は2つ。1つは、「バイヤーズリモース」と呼ばれるものです。バイヤーズリモースとは、買った直後に感じる後悔の感情のこと。サービス・商品の品質はほとんど関係がないと言われています。2つ目は、接触不足のために忘れ去られてしまうことです。これらを踏まえて、初回客に対して最適なアプローチは、「商品に対する満足度を高めながら接触頻度を増やすこと」と言えます。
初回利用から間を開けずに2回目の利用があったお客様
2回以上利用しているということは、サービス・商品に満足している状態であることが分かります。しかし、まだつながりが浅いので、同じような商品がより低価格で出てきた時は乗り換えられてしまう恐れも。そこで、商品だけでなく、あなたの会社・店舗に愛着を持ってもらう必要があります。会社に対して共感できるようなコンテンツを提供してみるのも1つの手です。
初回利用から2回以上の利用があるお客様
複数回利用しているということは、商品にも満足しており、あなたの会社・店舗にも愛着を持ってくれているお客様と言えます。しっかりコミュニケーションが取れている状態ですので、クロスセルで単価向上を狙いましょう。と言っても単に商品を複数お勧めするのではなく、「クロスセルの商品を買うことでより良い状態を手に入れることができる」という事実をしっかり伝えなければなりません。商品についてや会社の魅力なども併せて提供することも効果的です。
長い間定期的に利用してくれるお客様
この顧客群は大切なパートナーとして認識しましょう。そして、会社を支えてくれていることに対して、しっかりと感謝を表す必要があります。方法の1つとして、特別感を感じてもらえるスペシャルコンテンツを提供してみると良いでしょう。例えば、特別商品を用意したり、特別イベントに招待するなどです。そうすることで、さらにサービス・商品、会社・店舗に愛着を持ってくれるようになり、信頼度も維持することができます。
リピーターの数字を視覚化する
販売戦略を実行していくと、「何となくリピーターが増えて売上が上がった気がする」という感覚が出てくると思います。しかし、それで満足してはいけません。よくよく調べてみると、リピーターがもたらしてくれた売上より、販売戦略の実行にかかったコストの方が高いということもあり得るからです。
数字が目に見えて悪ければ改善をしたくなるのが人間というもの。より効率的に改善をするために、「日次・週次・月次のサイクルで集計する」「数字の内訳を調べる」「リピートのスパンを調べる」といった部分に注目して数字を取ってみると良いでしょう。
3.商材別に見る、販売戦略の成功のポイント
例えば、美容院と化学品メーカーが同じ販売戦略を取って、いずれも成功するでしょうか。美容院であれば、ポイントカードやクーポン券などの導入は有効な方法と言えますが、化学品メーカーでの導入は難しいですよね。
これは極端な例ですが、販売戦略の基礎は共通していても、商材ごとに成功のポイントが違ってくると思います。では、分かりやすい商材別の例を挙げて見比べてみましょう。
アパレル用品の場合
アパレル用品を扱う場合、繁忙期と閑散期があります。閑散期はなかなか集客につながらず、逆に繁忙期であっても客単価が低ければ利益は伸びません。そこで、客数と客単価の2軸でアプローチしていく必要があります。
バーゲンやセールの実施
前述した通り、値引き・割引を全面に出すことでリピート率は低くなりますが、「集客」という面で見れば1つの施策です。例えば、季節ごとのセールだけでなく、「2点以上購入で△円引き」といったまとめ買いを提案してみるのも良いでしょう。
ポイントカードを作る
購入額に応じてポイントを付与するカードを発行する方法です。新規顧客数を増やすのではなく、リピーターを増やし、客数を伸ばします。
メールやSNSを活用する
顧客に対し、ダイレクトメールやSNSを通してセールなどの最新情報を提供することでリピーターを増やします。また、TwitterやFacebookなどのSNSを活用することで、新規顧客が増えるキッカケにもなるでしょう。
次に、客単価を上げる販売戦略について考えてみます。
特典をつけてまとめ買いを狙う
「×××円以上ご購入の方にはポイント△倍」「●●●と△△△をお買い上げの方には、◆◆◆◆をプレゼント」といった方法です。まとめ買いをしてもらうことで客単価を上げるという方法です。
クロスセルの提案
「この商品とこの商品を併せて使うことで、こんな風になる」と、まとめ買いをすることのお得感・効果をアピールする方法です。
複数商品の提案
「この商品には3グレードあって…」というように、似た商品の中でも価格帯の違う複数の商品を提案。顧客の高いもの=良いものという認識を利用して、より高い商品を買ってもらう方法です。
これらを組み合わせ、閑散期・繁忙期に関わらず一定の売上を上げられるように販売戦略を考えていきます。
食品や酒・飲料の場合
私たちが口にする食品や酒、飲料などは、他の商材と比較しても販売戦略が立てやすいジャンルと言えます。というのも、食べきってしまえばなくなるため、一度気に入ってもらえれば何度も買ってもらうことができるからです。つまり、リピーターを増やしやすい商材ということ。
それでいて、同じ商品でも生産者や産地が異なることで差別化を図りやすく、商品力を高めやすい点もポイント。差別化された特長を上手く使ったり、商品になるまでの過程をストーリー化すれば、顧客をファン化しやすい状況が生まれます。
このように商品力がある食品、酒、飲料などは、その商品力を「顧客の求める情報」として伝えることがポイントとなります。ストーリーなどを上手く使って、「ここでしか買えない商品」を生み出していき、ブランディングをしていきましょう。
4.販売戦略が成功している企業の実例
世の中では様々な販売戦略がなされています。その中には効果がイマイチ出ていないものもあれば、成功して多大な効果を生み出しているものもあります。それらの事例の中には、学ぶべきことがたくさん。ぜひ良い部分を活かしていきたいものです。
そこで、巷に溢れる販売戦略の中でも特に成功したと言える事例をご紹介します。
再春館製薬所
「初めての人にはお売りできません」というキャッチフレーズで有名なドモホルンリンクル。それを取り扱う再春館製薬所の売上は90%がリピート購入によるものだとご存知でしたか。顧客から圧倒的な支持を得ている再春館製薬所は、どのような販売戦略を行なっているのでしょうか。
実は、1990年までは企業側から顧客へアプローチするアウトバウンドが中心のビジネスモデルでした。しかし、アウトバウンド比率が売上の70%に達した1990年に、インバウンドのビジネスモデルへシフト。お客様満足室を設置して、顧客満足を追求する経営をスタートさせました。そして、「お客様満足=売上」という方程式を全社員と共有しました。
社長である西川氏は「唯一無二の存在」「オンリーワン」という言葉を多用しています。それは、「10人中1人でも良いので一生のお付き合いをしてくれる人を探したい」という想いからなのだそう。“お客様中心”という言葉は良く耳にするが、再春館製薬所は“お客様満足”をブランディングに使った、と言えるのではないでしょうか。
例えば、化粧品容器は通常デザイン面が優先されがちですが、再春館製薬所では使いやすさ重視。容器にメモリを入れて、どれくらい中身が残っているのかをひと目で分かるようにしたり、持ちやすいようにくぼみをつけたり、顧客が日常で使うシーンを想定して設計されています。
そして、CMにも会社のファンを増やす戦略が盛り込まれています。「初めての人には販売しない」という挑戦的なキャッチフレーズです。あえてメッセージ性の強いキャッチフレーズを使うことに対して、再春館製薬所は「自分たちが言いたいことを言っていかなければ、共感してくれる人がいなくなってしまう」と考えているそう。
このように、会社の考え方や風土を包み隠さず伝えることが会社のファンを増やし、さらにはリピーターを増やしています。結果、売上の90%がリピート売上という脅威の数字を実現できたのではないでしょうか。
セブンイレブン
コンビニの利用者といえば、若者と考える方も多いのではないでしょうか。しかし、コンビニ来訪客の世代分布を見てみると、2013年時点で50代以上が30%を占めており、それ以降もシニア世代が利用割合を伸ばしているというデータが出ています。
総務省によると、日本の人口に占める65歳以上の割合は25%を超えています。特に都心部や郊外集合住宅周辺では高齢化が顕著なため、距離がある店舗よりも目の前にあるコンビニを利用するシニア層が増えているのだとか。
そのシニア層をターゲットとしたサービスを顕著に展開しているのが、セブン-イレブンです。例えば、宅配サービス「セブンミール」。国内最多店舗数を誇るセブン-イレブンですが、それでも高齢者にとっては訪れるのが困難な場合があります。そこで、食事を宅配するサービスをスタートしました。365日年中無休でサービスを展開しているので、一人暮らしの高齢者にとってはとても便利なサービスでありつつ、リピート率の向上に繋がるサービスとも言えます。
また、「セブンプレミアム」というPB商品をご存知でしょうか。惣菜が一品ずつ小分けされ袋に詰められているものです。これは「美味しいものを少しだけ食べたい」という高齢者層のニーズを汲んだ商品です。また、小分け商品は購入回数を高める効果があるため、来店頻度の向上、つまりリピーター客の増加も見込める戦略と言えます。
5. おすすめの本
ここまで様々な販売戦略方法や成功事例をご紹介しました。しかし、これはまだほんの一部。学ぶべきことはまだたくさんあります。そこで、販売戦略を考える上できっと役に立つ、おすすめの本をいくつかご紹介します。
人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識|著・齋藤孝浩
ZARAは月曜日に勝負をかけ、しまむらは在庫一点主義にこだわる。H&M、ユニクロ、JINSなど、人気チェーンはファッション業界の常識を覆している。そんな新たなビジネス方程式から、他業種にも参考になる“カイゼン”のヒントを抽出した一冊。具体的なノウハウが詰まっており、アパレル業界外の人にとっても学ぶべきことが多い一冊です。
断トツに勝つ人の地域一番化戦略―新たなマーケットはズバリこうつくれ!|著・佐藤勝人
全国各地でグループコンサルティング「勝人塾」を主宰する著者が、地方都市、衰退業種でも新たなマーケットを創造し、断トツに繁盛させるための実践法を伝授した一冊。著者・佐藤氏の目の付け所は非常にユニーク。「子どもからお年寄りまで地域のお客様全員に間口を広げて売っていくのだ」という考えは、これまでの販売戦略の考え方を覆すものになっています。中小規模の企業・店舗を展開している人におすすめです。
ゼロ距離マーケティング なぜ、あの会社はリピーターが多いのか?|著・浦郷義郎
お客様と企業の「距離」を近づけること。それが本書の説く、ゼロ距離マーケティング。ホスピタリティ理論に基づく経営コンサルタントとして産業界で注目され、多くの有名企業の社長へ講演を行なう著者・浦郷氏が、ビジネスをあらゆる「距離」から捉えなおし、新しいマーケティングの実践法を分かりやすく解説しています。特に、サービス業の方におすすめ。ホスピタリティ・マインドは、コミュニケーションの基本であると同時に、販売戦略の肝となることが理解できる一冊です。
6.まとめ
物やサービスが豊富になった現代。消費者側の視点で見れば便利ですが、売る側から見ると差別化が難しくなっています。だからこそ、企業や店舗にとって販売戦略は非常に重要。そして効率よく売上を上げるためには、既存顧客の深耕が肝となってきます。
今後、企業間・店舗間の競争はより激しくなっていくでしょう。自分たちらしさを大切にしつつ、顧客の心を掴む販売戦略を立てるべく、本記事をぜひ参考にしてみてください。
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